短編
□僕の好きな人。きっかけ編
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僕の名前すら知らなかった真一にファーストキスを奪われ、激昂して川に蹴り落としたあの日以来、僕はこの「変わり者」を避けていた訳なんだけど。
「……えぇ?」
教室に入ったら彼は窓からのけぞる様に上半身を出していた。
何してんのこの人――!?
手で支えてるけどそんな今にも落ちそうな体勢して、ここ3階だよ!?
やっぱり自殺志願者だったの!?
っていうかあんた、隣のクラスだろ――!?
「…あ、この間の」
固まっている僕に気が付いて、真一は体を起こすとそう言った。
そこで僕はハッとする。
理由はさておき、川に蹴り落としたのは事実だし、絶対怒っているに違いない。
変わり者を怒らせたらどうなるのかと、完全に窓から離れた真一に僕は肩をすくめたら。
「この間はありがとう」
……んん?ありがとう?
出てきた言葉につい首を傾げると、真一はふっと微笑む。
「土砂降りの日に川に入るなんて貴重な体験、滅多にないからね。ありがとう」
その声音には皮肉も何もなくて、純粋に本心で言っているのだとわかった。
実に良い経験になった、と笑う彼に呆気に取られて、それから。