短編2
□届け、この想い
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「ごめんなさい、貴方が好きなんです」
挫折も知らないような生意気なガキが、言葉尻とは裏腹に不遜な笑顔でそう言った。
初めは言葉の意味がわからなくて眉をひそめたが、すぐにそれが告白というヤツなのだと理解する。
こいつは決して馬鹿じゃ無い。
冗談で大人をからかうような幼稚さも無い。
では、これはなんだ。
表情に隠された、必死な瞳。
よくよく見れば、男にしちゃ細い肩が僅かに震えていた。
「……ほぉ、そりゃ残念だ」
動揺を悟られないように、わざと大きなため息をついてやる。
この俺の中に瞬時に湧き上がった感情に、気が付かないでくれと願いながら。
大人は狡いんだ。
悟られないように、ワザと目をそらす。
蠢く欲望を知られないように。
潜めていた想いがばれないように。
「せんせい……」
遠慮がちに呼ばれた役職に、はっと目が覚める思いがした。
そう、そうだ。
俺とお前は教師と生徒。
それ以下にも、それ以上にもなってはいけない関係なんだ。
掴まれた腕をそっと外す。
「恋愛は、対等でないとな」
腕を外したその手のひらで、頭をなでてやった。
これが、今の俺が触れられる、最短のキョリ。
「……悪いな」
存外にわかってくれと滲ませるには、相手が若すぎるかも知れない。
だけど、それ以外には言葉が出て来なくて。
ジワリと涙が滲んだその顔を見ないように、そっと背を向けた。