『ひねくれ者の悪魔自由気ままな天使』

□第十五話
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…このままじゃダメだ。

夜中、不動は1人シャワーを浴びながら思う。

適切な温度で自分にかかるお湯の雨は、身体を撫でるように伝い、冷たいタイルの床に落ちていく。

やがて温度を奪われ、身体に今の今までかかっていた湯は水と化して排水口に流れていった。

ザーと耳元でするシャワーの音は、なんだか自分をあざ笑っているように感じて腹立たしい。

そんなわけがないのに、そこまで思うほど、不動はいったい何を思い詰めているのだろう。

その緑色の瞳は、今何を思っているのだろう。

ギュッと右肩を押さえて不動は縮こまる。

そこには、紫の翼をかたどったタトゥーがあった。

どんなに洗ってもおちることなんてない、自分をつなぎ止める"しるし"。

目を閉じて、思い浮かべるのは雨宮の笑顔であり、それが不動を自然と安心させた。

…自分の逃げ場を自らなくした。

後戻りができないように。

自分の居場所は、"そこ"しかない。

5年前にたてた、子供の自分の小生意気な誓い。

戻らない、戻れない。

自分で決めた道なのだからと。

「…不動?」

シャワーを止めた時、しんと静まるそこに、声がこだまする。

不動は驚き目を見開いて、其方に目を向けた。

そして内心戸惑いながら思ったこと。

"何故こいつがここにいる?"

人を呼んだのは其方である筈なのに、向こうまで驚いたように此方を見ている。

ゴーグルのない普段は人にあまり見せないであろう真紅の瞳が、不動をじっと見つめていた。

「…なんだよ。」

不動は右肩を抑えつつ、鬼道に問う。

不快そうに、顔を歪めて出した低い声は微かに焦りが含まれていた。

「…こんな時間に、1人で入っていたのか?」

鬼道のその言葉に何だそんなことかと拍子抜けする。

『だったら?』といつもの調子で返せば、今度は鬼道が不快感を露わにさせた。

不動はハッと鼻で笑い、立ち上がって湯船に身を沈めた。

入浴剤で白く濁るお湯は、ある程度浸かればその姿を隠してくれる。

肩までどっぷり浸かり、右肩から手を離す。

濃い色のタトゥーだってこうしてしまえば白に呑まれてしまう。

不動は広い浴槽の隅で足を伸ばし息を吐いた。

ちらりと鬼道に目をやれば、こちらのことなど気にしないというようにシャワーの蛇口をひねって頭から被る。

当然だと思った。




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