『ひねくれ者の悪魔自由気ままな天使』
□第二十話
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…心臓の音が酷くうるさい。
本当にこれが自分の身体なのかと思うくらい勝手がきかなくて、ただ腕の中に収まる存在を抱き締める。
そうすることしかできない。
今さら、後になんて引けなかった。
「…好きなんだ。」
もう一度言おうとも、雨宮は動かない上、言葉にも答えてもくれない。
返答に迷っているのか、それとも急なことに混乱しているのか。
…どちらでもなかった。
雨宮は、鬼道の身体を強く突き飛ばし、急なことに鬼道は身を離してしまう。
「…気持ちは嬉しいけど、悪い。お前の気持ちには答えられない。」
鬼道の両肩を押さえる雨宮は至極冷静な声で言葉を返す。
戸惑いを感じさせてはくれない雨宮の反応は、鬼道の胸を締め付けた。
「俺は、お前のことわりと好きだけど、そういう風に見れない。」
「何故だ…。」
鬼道の言葉に、雨宮はただ『悪い』と謝罪の言葉を述べるだけ。
何となく、鬼道にはわかる気がした。
雨宮が断る理由も、何故そんなに辛い顔をするのかも。
「何故、そこまで不動にこだわる…!!」
雨宮は目を伏せて答えない。
断る理由は、どんな形であり不動が関わっている。
鬼道は、そう思えて仕方ないがないのだ。
そうして辛そうな顔をするのは、いつも自分のそばにいる不動を裏切ってしまうと思う罪悪感からなのではないか。
鬼道は、悔しさを押し殺して奥歯を噛み締める。
「…あいつは非道な人間だ。」
忌々しげに漏らし、鬼道は続けた。
「あいつは…!自分の目的の為に、俺の仲間を傷つけたんだ!!!!!!」
雨宮の知らない真実を吐き出す。
今思い返しても、怒りがフツフツと湧き上がってくる。
走馬灯のように、フラッシュバックする真・帝国との試合。
試合と言うには、悲惨で残酷すぎるあの情景を。
「あんな奴と同じチームでプレーするのは耐えられない!またいつ誰が傷ついたっておかしくないんだ!」
「…だから?」
雨宮は表情を変えずに、そう聞き返す。
『そんなこと関係ない』
言葉に表さずとも、そう言っているように思えた。
「不動は、自分の為だけの目的で、周りを傷つけたりする奴じゃない。」
雨宮のその言葉に、鬼道はゴーグルの奥の赤い瞳を見開く。
「他に、理由があったんじゃねぇかな。」
*