『ひねくれ者の悪魔自由気ままな天使』
□第二十一話
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…耳をつんざくほどの餓鬼の泣き声を聞いた。
餓鬼と言っても相手は俺より図体のデカい男子でつい数分前まで俺に喧嘩をふっかけてきた奴。
自分で喧嘩売ってきて、一回り小さい俺の蹴り一発で泣くなんて情けない。
「明王くん!何やってるの!!」
そうして叱られるのはいつも俺。
この孤児院は、いったいいくつ目だ?
どこに行っても問題児扱いされていた俺は、彼方此方の孤児院を転々としていた。
孤児院の奴らは俺の意志なんて関係なしに、半ば押し付けるように他の所に俺を連れていく。
俺を引き取りたいなんていう物好きは早々いない。
前に何回かそんな話が出たが、その引き取りにきた奴が気に入らなくて唾を吐きかけて拒絶した。
子供の俺に本気で怒る大人はひどく滑稽だった。
孤児院で俺は1人でサッカーボールを蹴っていた。
それしかすることがなかったから。
別に孤児院に残りたいわけじゃない。
むしろこんなつまらない所、こっちから願い下げだ。
けれどまだ幼い自分には1人で生きていけるほどの力なんてなくて、ただ過ぎていく時間に身を任せることしかできなかった。
「…明王くんの里親が決まったよ。」
ある日、孤児院のセンセイが俺にそう言った。
このご時世にとんだ物好きがいたもんだ。
作り笑いを浮かべる目の前の女が、醜く見えた。
「…―――本当によろしいんですか?あんな子を引き取るなんて…。」
ドアの奥で、そんな声を聞いた。
「どうしても、あの子を引き取りたいんです。」
聞いたことのない男の声。
部屋の中に俺が不機嫌な顔で入ってくれば、男はにっこり笑みを返す。
女みたいなキレイな顔立ちをしていて、白く長い髪を結っていた若い男。
背の高い男はわざわざ俺にあわせて身をかがめ、顔を覗き込む。
「君が、不動明王くんだね。」
大きな手を差し出し、俺は思わず顔をしかめる。
なれ合うつもりなんてこれっぽっちもなかった。
親だとか、家族だとか、そんなの結局仮初めで、馬鹿馬鹿しいと思っていたのに…。
「はじめまして。僕は"雨宮秋羅"。親というか、むしろ兄弟に近いのかな?気楽に"お兄ちゃん"て呼んでくれてもいいからね。」
"雨宮秋羅"
その名前を聞いて俺は目を丸くした。
暫くの間凝視すれば秋羅は首を傾げる。
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