『ひねくれ者の悪魔自由気ままな天使』
□第二十六話
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フィールドの中心で、的確な指示が次々と彼の口をついて出る。
駆け出し、相手陣内に切り込んで、指示を出す腕1本で相手を翻弄した。
流れるように美しい試合展開。
操っているのは、1人のゲームメーカー。
肩にはその確かな実力を象徴するようなキャプテンマークがあり、チームの誰もがその背中についていった。
鬼才、誰かが彼をそう称した。
試合終了のホイッスルが鳴り響いた段階で、彼のチームは常に大量得点差で試合を納めていた。
無邪気な子供の心を擽る、その力を彼は確かに持っていたのだ。
『あのっ、』
試合を終えてチームの元に戻っていく、その彼の背中に声をかけた。
思ったよりも大きく出た声に、周囲の選手も振り向き、その迫力に身動ぎさえしたけれど。
彼は首を傾げて自分を見ていた。
戸惑いながら一度俯き、そして意を決して顔をあげる。
『おれを、あんたの弟子にしてください!』
凝視する丸く開いた彼の瞳。
美しい空のようなクリアブルーの瞳がじっと自分だけを見つめていた。
これがおそらく雨宮秋羅とのファーストコンタクト。
不動明王が目指したサッカーの原点は、間違いなくここにあった。
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自分を囲む相手選手に当初の焦りは感じていなかった。
渦の中心でボールに足をかけ、頭は驚くくらい冴えていた。
この戦術の迫り来る壁のプレッシャーも気にならない。
周囲に視線を向ければ、ルートオブスカイの発動を恐れてか、付近の選手にはガッチリとマークがついている。
頭上からのパスは自殺行為。
それでも自分の思考は冷静だ。
1人ではパーフェクトゾーンプレスは破れないとチャンスウは言った。
それはチームに固定観念をもたらし、事実誰もがその常識に囚われる。
司令塔には、常に柔軟な考えが求められていた。
見えるべきものが見えなくなる、余計な考えは捨てろ。
不動は目を細め、ほくそ笑んだ。
「悪いが、その戦術はもう俺には通用しない。」
言葉は、動揺を誘う材料。
人間の心理は、複雑なようで単純だ。
司令塔であるチャンスウの表情が変わる、その時点でファイアドラゴンは自分の術中にはまっていた。
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