『ひねくれ者の悪魔自由気ままな天使』

□第二十六話
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フィールドの中心で、的確な指示が次々と彼の口をついて出る。

駆け出し、相手陣内に切り込んで、指示を出す腕1本で相手を翻弄した。

流れるように美しい試合展開。

操っているのは、1人のゲームメーカー。

肩にはその確かな実力を象徴するようなキャプテンマークがあり、チームの誰もがその背中についていった。

鬼才、誰かが彼をそう称した。

試合終了のホイッスルが鳴り響いた段階で、彼のチームは常に大量得点差で試合を納めていた。

無邪気な子供の心を擽る、その力を彼は確かに持っていたのだ。


『あのっ、』

試合を終えてチームの元に戻っていく、その彼の背中に声をかけた。

思ったよりも大きく出た声に、周囲の選手も振り向き、その迫力に身動ぎさえしたけれど。

彼は首を傾げて自分を見ていた。

戸惑いながら一度俯き、そして意を決して顔をあげる。

『おれを、あんたの弟子にしてください!』

凝視する丸く開いた彼の瞳。

美しい空のようなクリアブルーの瞳がじっと自分だけを見つめていた。

これがおそらく雨宮秋羅とのファーストコンタクト。

不動明王が目指したサッカーの原点は、間違いなくここにあった。


* * *


自分を囲む相手選手に当初の焦りは感じていなかった。

渦の中心でボールに足をかけ、頭は驚くくらい冴えていた。

この戦術の迫り来る壁のプレッシャーも気にならない。

周囲に視線を向ければ、ルートオブスカイの発動を恐れてか、付近の選手にはガッチリとマークがついている。

頭上からのパスは自殺行為。

それでも自分の思考は冷静だ。

1人ではパーフェクトゾーンプレスは破れないとチャンスウは言った。

それはチームに固定観念をもたらし、事実誰もがその常識に囚われる。

司令塔には、常に柔軟な考えが求められていた。

見えるべきものが見えなくなる、余計な考えは捨てろ。

不動は目を細め、ほくそ笑んだ。

「悪いが、その戦術はもう俺には通用しない。」

言葉は、動揺を誘う材料。

人間の心理は、複雑なようで単純だ。

司令塔であるチャンスウの表情が変わる、その時点でファイアドラゴンは自分の術中にはまっていた。





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