『空っぽの心情』

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…黄色のユニフォームを身に纏い、雨宮はMFのポジションにつく。

「よろしくお願いします。」

感情のこもっていないような声で、雨宮は神童にそう言う。

天馬といい、雨宮といい、久遠の意図が、メンバーは全く読めない。

それは、どうやら相手も同じらしい。

剣城は顔をしかめ、雨宮に目を向ける。

先ほどの自分の蹴ったボールをもろにくらって、平気で立ち上がった雨宮が気になって仕方ない様子だ。

雨宮はというと、ただ無表情で、眉1つ動かさず、周りを見渡しているだけ。

…考えすぎだろうか?

剣城は足元のボールに目を向ける。

どちらにせよ、サッカー部もろとも潰せばいい。

剣城は天馬に目を向け、何を思ったか、ボールを送る。

驚き、剣城を見る天馬。

「…やるよ。さぁ、きな。」

挑発的な笑みで、剣城は言い放つ。

天馬は戸惑いを隠せないが、絶好のチャンス。

「いくぞぉぉぉ!!」

天馬は剣城に向かっていく。

脇から、黒の騎士団メンバーが、スライディングを仕掛ける。

天馬はそれをドリブルでよけた。

周りは驚いたように天馬を見る。

先程とは打って変わった状況。

剣城からボールを奪えず、遊ばれていた少年と同一人物とは思えない。

天馬はボールを手にした途端、動きが俊敏になっていた。

しかし天馬は、周りにパスをしようとはせず、ただ逃げるように、ボールをキープし続けていた。

何故周りにパスをださない…!?

誰もが思った疑問。

だが、考えればわかる。

おそらく、天馬の中で、この試合は『勝つ為の試合』ではなく、『みんなを守る為の試合』になっていた。

メンバーを傷つけさせないように。

標的が周りに移らないように、制限時間が終わるまで、ボールをキープし続けるつもりらしい。

だが、いくらドリブルがうまくても、そう長くは続かないだろう。

それは天馬自身もわかっていた。

けど、どうしたら…。

「松風。」

名前を呼ばれ、松風は振り向く。

いつの間にか、雨宮が天馬の隣にきている。

「僕にボールを渡せ。」

「…でも…!!」

天馬は迷った。

雨宮の周りにも、何人かマークがついている。

下手をすれば、雨宮だって…。





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