『空っぽの心情』
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母親に案内され、剣城はリビングへと通される。
リビングは随分整理されていた。
シンプルにまとめられているリビングは、特に寂しいというわけでもなく、いるとどこか落ち着く。
「コーヒーでいい?」
「何でも。」
剣城は素っ気なく答え、辺りを見回した。
母親は笑いながらキッチンに向かう。
傍らで、シャワーの音が聞こえる。
剣城はため息をついた。
雨宮があんなことを言うなんて予想外で、結局断れず家にあがったわけだが…。
頭を抑え、剣城は顔をしかめる。
まぁ、お礼をされることは別に悪い気はしない。
剣城はふと、棚に目を止める。
棚の上に、写真が飾れていた。
写真館の家なのだから写真が飾ってあるのは不自然ではないのだが、その写真が何故か気になって、剣城は棚に近づいた。
飾られている2枚の写真。
片方は、優勝カップを持ったキャプテンを囲み、笑みを浮かべる選手達の集合写真。
傍らに監督や、マネージャーの姿もある。
…この監督、どこかで見たことがあるような…。
紫色の髪に、左目を隠す前髪。
ハッとした。
剣城の頭に浮かんだのは『久遠道也』という名前。
今とは姿も服装も変わっているが、間違いようがない。
そう考えると、この写真はおそらく10年前のFFIの集合写真。
…しかし、何故そんな古い写真が、こんなところに?
剣城はもう片方の写真に目を向ける。
そして、目を見開いた。
その写真には、笑い合う少女と少年の姿が写っている。
青いユニフォームを身に纏う2人。
少女の方は、白い髪を1つに縛り、満面の笑みを浮かべていた。
少年にも見間違いそうな少女を見て、剣城が頭に思い浮かべたのは、今日会ったばかりの無表情な少女…。
「…そっくりでしょ?」
急に声をかけられ、剣城は振り返る。
母親がクスクス笑い、テーブルの上にコーヒーのカップを置く。
「でも残念。空じゃないのよ。」
剣城は少し落ち着き、再び写真に目を移す。
雨宮ではないことはわかっていたが、驚くほど写真の少女と雨宮は似ていた。
「座って。」
母親にそう言われ、剣城は黙って椅子に腰かける。
「10年て、結構早いわね。」
母親も椅子に腰かけ、コーヒーをすすりながらそうもらす。
*