『空っぽの心情』

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…入部希望として、サッカー部の入部テストを受けに来たのはたった6人だった。

松風天馬、西園信助、雨宮空、あとの3人は大方軽い気持ちでテストを受けにきた奴らだろう。

「これより、入部テストを行う。」

ルールは簡単。

試験対象者が2年と3年を相手に攻め込む。

方法は個人の自由だ。

「頑張ってみんなで合格しよう!」

「おー!」

一段と気合いの入っている天馬と信助。

雨宮はフィールドを見渡し、どう出るかを考えているようだった。

「…んな身体でいつも通り動けるわけねぇだろ。」

グラウンドの片隅、石段の上に剣城は腰かけ、そう漏らす。

手当てをした時、剣城は雨宮の身体を見て絶句した。

あちこちにあるたくさんの痣。

明らかに今日昨日では収まりきらない傷の数。

腕、足、肩…。

肌の色を忘れそうになるほどの、痛々しい青紫色の痣。

いったいこいつはどれだけの人間から暴力を受けてきたのか。

打撲や捻挫だらけの身体。

そんな身体でよく動いていられるものだ。

普通なら立っているのがやっと。

なのに、あいつは…。

「手間かけさせんな。」
ホイッスル音と共に、テストが始まった。

駆け出す6人。

雨宮は何ともないようにボールをとりに行っていたが、やはりどこか身体を引きずっている。

普通にテストをやっているなら、問題などないだろう。

2年3年だって手加減はしてくれる。

だが、剣城は嫌な予感しかしなかった。

そして、その予感は当たってしまう。

天馬が神童を煽った。

天馬にとっては、たいしたことではなかったろうが、天馬の言動は神童の神経を逆撫でた。

それに伴い、神童はプレーを荒くする。

当然その影響は試験対象者に響く。

天馬だけなら良かったものの、雨宮にもそれはあった。

いつもの雨宮だったら難なく神童をかわすことができただろうが、なにせあの身体だ。

よけることはできず、直撃してしまう。

倒れて、そのまま起き上がらなければいいのに、案の定雨宮は何事もなかったように立ち上がり、向かっていく。

神童は何度も雨宮にボールを蹴ったし、雨宮もそのたびに立ち上がった。

身体がふらついていたのが、嫌でもわかる。




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