『空っぽの心情』
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人によって、今日と言う日は『愉快』と思う者もいたし、『不快』だと思う者もいた。
栄都学園との練習試合を終えた雷門中。
3-0で終わらせなければならなかった試合は、神童の予想外のシュートにより、3-1という結果となった。
この結果は、端からみればフィフスセクターの指示に逆らったことを意味している。
この責任をとる為に、監督である久遠が監督を辞めることとなってしまった。
大半のメンバーが暗く沈んだ。
一時勝ったことに喜んでいた天馬たちも例外ではない。
これからのサッカー部に誰もが不安を感じていた。
そんな中で、ただ1人、喜びを感じている者がいる。
夕日に照らされ、白い髪が輝きを帯びていた。
無表情でありながらも、その足取りは軽く、跳ねるがごとく道を歩む。
その様子を見て、後ろについていく剣城は顔をしかめた。
「…随分不快そうだな。」
剣城の前を歩いていた雨宮はそう言って立ち止まり目を向ける。
「君としては良かったんじゃないのか?1つ仕事が減って、少し気が楽になっただろう。」
剣城は顔を背け、ため息をつく。
そう、自分の受け持った任務が1つ減ったのだから本来は喜ぶべきことだ。
だが、今日という今日で新たな問題が発生してしまった。
「そんなにフィフスセクターの指示通りに試合が終わらなかったことが気に食わないのか。」
剣城は表情を険しくさせる。
本当なら3-0で負けるはずだった試合。
神童のシュートは想定外だった。
たった1点、どちらにしても負けとなった試合だったが、この結果はフィフスセクターへの反乱だと思うに値する。
「…お前は、こうなることがわかっていたのか?」
剣城の言葉に、雨宮は無表情のまま、まばたきをし、首を傾げた。
「わかる筈がないだろう。僕には予知能力なんてないし、これは彼らが自ら起こした結果だ。」
そう言うと、雨宮はまた前を向いて歩き出す。
「悪いが僕は今凄く機嫌がいい。不快になるようなことは言わないでくれ。」
「なら、それ相応の表情をしろよ。」
「感情を表に出して何になる?他者に自分の感情を晒すことなんて何の意味もないだろう?ただ面倒なだけだ。」
『感情なんて自分がわかってればそれでいい』と雨宮は続ける。
その背中は心なしか寂しく感じて、何故か剣城の心の奥がキリキリ痛んだ。
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