『空っぽの心情』
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久しぶりに、帰路を1人で歩いた気がする。
ザッザッと人のいない道に、雨宮の足音だけが響く。
病院から出て、雨宮は少し軽い足取りで道を歩いている。
少し前までは1人で帰ることが当たり前だったのに、剣城に関わってから、それが全くなくなっていた。
だからこそ、この帰路はきっと貴重なものだ。
だが、さっきの秋羅との会話を思い出すと、気持ちが重くなってしまう。
最近秋羅の機嫌が随分いいことが気になっていて、『何かあったの?』と聞いて見ると笑いながら『もうすぐホーリーロードが始まるだろう』なんて言う。
…父さんらしいと言えば父さんらしいのだが…。
雨宮はため息をつく。
今日のミーティングでメンバーにあんなことを言ったことを、雨宮は珍しく後悔していた。
自分がいい目で見られていないのは自覚しているつもりだ。
だからこそ、今日自らが吐いた火に油を注ぐ発言は、雨宮にとって自分の首を絞めることとなってしまった。
自分をより一層不利な状況に追い込んだ。
無意識なこと。
もしかしたら癖になっているのかもしれない。
そんなことをしたって、僕の望みなど、叶う筈もないのに。
確実に、殆どのメンバーが勝敗指示を聞いてやる気を失っている。
天河原は、簡単に勝てる相手ではない。
1人でも勝つなど、無謀な賭けだ。
だが、勝たなければ次には進めない。
なんとしてでもホーリーロードを優勝し、"あの男"をあの場から引きずり降ろさなければならない。
フィフスセクターなんてくだらない管理組織を設立し、サッカー界を自分の思い通りにしようと思っている、あの男。
…聖帝、イシドシュウジ。
なんとしてでも、あの男を引きずり降ろす。
その為なら、どんな犠牲も惜しまない。
元々1人の僕に、今更失って困るものなんてない。
フィフスセクターは、僕の家族に手出しはできない。
フィフスセクターを潰す為なら、何だってする。
どんな敵が、自分の前に立ちふさがろうとも…。
ふと、雨宮は立ち止まり、激しく首を横にふる。
また、だ。
一瞬脳裏に剣城の顔がよぎり、雨宮は頭を抑えた。
最近いつもこうだ。
何かと何の前ぶれもなく、剣城のことを思い浮かべてしまう。
奴はシードで、僕の敵。
潰さなければいけない相手。
そう、確実に早めに潰さなければならない。
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