『空っぽの心情』
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…雨宮の隣を歩くのは、本当に久しぶりだ。
病院を2人並んで出ていって、雨宮は珍しく嫌だとは言わなかった。
けれど、2人の間には、沈黙が流れている。
いざこうして2人になると、何を話しているかわからない。
剣城は隣の雨宮に目を向け、ため息をついた。
「…すまなかったな。」
何故か聞こえた謝罪の言葉。
沈黙を破ったのは雨宮だった。
無表情な顔で、俯き加減の雨宮。
何に謝っているのかわからず、剣城は首を傾げる。
「君の事情に、首を突っ込む気はなかったんだ。優一さんから聞いたよ、足のこと…。」
「…で?」
少しきつい言い方になってしまっただろうか?
剣城は不快そうに、雨宮に目を向ける。
「…幼い頃のことを、引きずる気持ちはわかる。けれど、君が木から落ちたのは、紛れもない事故で「うるせぇよ。」
剣城の口調に怒りが含まれた。
雨宮にそんなことを言われたところで、気休めにしか聞こえない。
無表情でそんなことを言われたって腹がたつだけだ。
「…あんなお兄さんを持つ君が、少しだけ羨ましいよ。」
剣城は驚いたように雨宮に目を向ける。
どんな意図があって雨宮がそんなことを言ったか知らないが、明らかに雨宮らしくない言動だ。
無表情でも、なんだか、その表情に悲しみが見えた気がして…。
「悪い…。」
わけがわからないまま、剣城の口から自然とそんな言葉が漏れる。
雨宮はそんな剣城を見て首を傾げた。
透き通るようなクリアブルーの瞳は、剣城の顔を覗き込み、剣城はなんだと言いたげに目を細める。
「…やっぱり、君はわからない。」
「それはこっちの台詞だ。」
自分で言ってなんだか、急に可笑しくなってフッと笑みを漏らせば、雨宮はまた不可解そうに首をひねる。
さっき自分が怒ったことにすらおかしくなって、少し声を上げて笑ってしまった。
端から見れば、和やかな雰囲気に見えるその状況。
どこか恋人くさいその様子を、他者はどのように見るのだろうかと、剣城は疑問に思ったりもするのだが、今はそれより、この憂いに満ちたような状態を少しでも長く味わいたいと思う。
しかし、大概そんなことを思っても、幸せな時間は長くは続かない。
どこか下手な小説家がよく綴るような文章だが、実際そうなのだ。
病院の門を出ようとしたとき、雨宮の足がふと止まる。
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