『空っぽの心情』
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…さっきまで隣にいたのに、結局帰りは1人になった。
2回戦の相手は万能坂、スコアは1-0で雷門の負け。
その勝敗指示を実行する為に、剣城は試合に出ることになった。
監督の円堂の言葉は気がかりではあるが、関係ない。
『雷門を潰す』それが自分がすべき仕事だ。
1人河川敷を歩き、剣城は自分に言い聞かせる。
全ては兄、優一の為…。
『…僕には、サッカーしかないんだ。』
剣城はふと立ち止まる。
自分の思考を邪魔するのは、いつだったか雨宮が吐いた言葉。
密かに気になったのは、今日イシドが話していた雨宮の『妹』の存在。
事故で、妹を亡くしていたという雨宮。
それから何かが引っかかっていた。
『…亡くなりましたよ。2年前に、事故で…。』
精いっぱいの虚勢だったように剣城は感じていた。
自分の感情を押し殺して、必死に抑えて。
こんな感情を持ち合わせちゃいけない事くらいわかってるけど、だけどそれでも…。
ポチャンッ、と川に何かが落ちたような音がした。
軽くも、重くもないような音。
小さくも、剣城の耳にははっきりと聞こえた。
ポチャンとまた聞こえ、今度は視界の端に川に投げ込まれる小石をとらえた。
ポチャンポチャンと、また2つ3つ投げ込まれる小石。
どこから投げ込まれているのだろうと、元を辿れば、視線の行き着く先は橋の上。
そこにいた人物に、剣城は目を見開く。
とっくに帰ったとばかり思っていたのに、道草でもくっていたのだろうか?
白髪が風に揺れ、つまらなさそうな顔をした雨宮が、そこにいた。
投げ込む小石を見つめて、ため息でもつきそうな顔だ。
剣城は遠目でその様子を見ていたが、雨宮はその存在に気づいたのか、ふとこちらに目を向ける。
そして目を細め、剣城を一瞥すると、何事もなかったように歩きだす。
剣城は、それを見て反射的に駆け出した。
何か用があるわけでもない。
話したいことなんてこれっぽっちもない。
それを知ったら雨宮はきっと目を細めて、剣城を見据えるだろう。
『それじゃ、何だ』と剣城に問うだろう。
本当にそう問われたらどうしようかと、剣城は内心思った。
答えなんてないから。
ただ、ただただ本能的に、剣城は雨宮を追いかける。
「ッ!…空!!」
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