『空っぽの心情』
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…響いた音は、メンバーの耳に妙な余韻を残す。
大きな音には違いなかったが、あざとくメンバーにそのような現象をおこさせたのは、目の前の光景に驚愕したことがあげられるだろう。
ゴールにボールを叩き込もうと構えた雨宮。
しかし、今ボールは雨宮の足元にも、キーパーの手におさまっているわけでもない。
見ればボールは万能坂DFの足元。
雨宮の姿は一瞬視界から除外され、雷門メンバーは目を見開いた。
雨宮の身体は地につかず、宙に舞う。
雨宮がボールを蹴る直前に突き飛ばしたDFはニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。
「雨宮!!」
思わず叫ぶ神童。
体格のいいDFだったがために、身の軽い雨宮はその力に耐えきれなかったのだろう。
一瞬の油断。
あまりに急なことに、メンバーは対処することができなかった。
咄嗟にボールを奪おうと天馬が駆け出す。
だがそれは、すぐ意味をなさなくなる。
突き飛ばされた雨宮はすぐに顔をあげ、地に足をついて切り返した。
ボールを奪って少し気を緩めていたDFはあっさりボールを奪い返され、呆気にとられる。
「…嘗めるな。」
雨宮はすぐに体制を整え、シュートを放った。
しかし、ボールは虚しくも、GKの篠山の手に収まる。
チッと雨宮から漏れる乾いた舌打ちの音。
篠山はすぐ、陣内にボールを投げる。
地面にボールが落ちれば、とられる危険性が高い。
雨宮はすぐ冷静な判断をし、飛び上がろうと右足に力を入れる。
しかしそんな雨宮よりも早く、神童がボールをとり、何を思ったかグラウンドの外に蹴り飛ばした。
ホイッスルの音と共に『雨宮!』と、明らかに怒りを含んだ神童の声。
雨宮は表情のない顔を、ゆっくりむける。
「どういうつもりだ…!」
「…何のことですか?」
「何故ボールを渡さなかった!!」
目をつり上げ、雨宮を怒鳴る神童。
先程の状況で、フリーだった自分にパスをおくらなかったことに、不快感を抱いていたのは確かであろう。
「気づきませんでした、すみません。」
悪びれもなく、ただ形だけの謝罪を述べた雨宮に、神童は目を見開く。
…あのとき目はあった筈だ。
雨宮が目をそらしたことを神童は知っていた。
雨宮は神童の様子を気にせず、ポジションに戻る。
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