『おねがいキスして10題』

□2.内緒でキスして
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パタンと、冷蔵庫を閉めた。

風呂上がりでまだふき足りない髪からは雫がたれ、アタシはとりあえず落ち着こうと深呼吸をする。

…無いはずが、ない。

意を決してもう一度を開ける。

しかし、そこにお目当ての物はない。

昼間、風呂上がりに食べようと買ってきた駅前のそこそこ今話題になっている洋菓子店のカスタードプリン。

「…何でねぇんだよ…!!」

沸々と込み上げてくる怒り。

まだ食べてないのにある筈のものが消えていると言うのは、誰かが食べたと言うこと。

誰だ、そんなことするバカは!

兄貴はアタシのものがわからねぇわけねえし、みさ姉は余計なものは弄くらねぇし、じゃあ誰だ?

記憶を探って探って犯人を捜すと、案外あっさり犯人割り出せた。

足は迷いもなく、リビングへ向かう。

テレビの音のするその場所で、テーブルの上に置かれる空のプリンカップ。

ショックですよ、そりゃあ楽しみにしてましたからね!

あれか?こないだ勝手に食ったバナナのこと怒ってんのか?仕返しのつもりか畜生!

仕方ねぇだろ!腹減ってたんだから大目に見ろよ!!

あれはどこのスーパーでも売ってるごく普通のフィリピン産のバナナだったからいいけどさ!アタシ買ったプリンは1個400円の結構するやつだぞ!!

コンビニで売ってる1個90円パッチンプリンとは格が違うんだよ!!

確かにお前がいい感じにバナナのシュガースポットできんの待ってたの知らずに食べたアタシも悪いけどさ、謝っただろアタシ!!

一歩一歩、怒りを踏みしめるようにソファーに寄りかかっているであろう人物に近づく。

「おい、明王!!」

名前を呼んで、ソファー真ん前に出た。

食べ物の恨みは七代祟るって知らねぇのか!

そう怒鳴りつけてやろうと思ったが、反射的に口を閉ざしてしまう。

何故やめたかって?

そりゃ目の前で犯人であっても気持ちよさそうに眠ってる恋人見たら怒鳴るの気が引けんだろ。

横長のソファーを独占して、足をはみ出しつつ、明王は仰向けに眠ってしまっていた。

起こす選択肢はなくねぇけど、あんまり気持ちよさげだからなんだか起こすに起こせない。

身をかがめて、様子を見ていれば、微かに聞こえる一定間隔の寝息。

「…マジで寝てんのかよ。」

答えないとわかっていながら頬をつつくと、明王はピクリと反応する。

狸寝入りじゃないらしい。

なんだか今さっきまであった怒りが一気に冷めた。

「、っんだよ。」

なんだか無性に悔しくなる。

そう言えば、似たようなことあっても、明王と本気で喧嘩なんてしたことがない。

3年も付き合っているのに、そう考えると不思議だ。

「…なんでだろうな。」

じっと明王の顔を見つめる。

相変わらず長い睫毛だなとか、綺麗な顔だちしてんなぁとか思う。

そんな何気ないことを考えていたら、何だか自然と笑みが漏れた。

「大好きだよ、明王。」

惚れた弱みってやつかな…。

目を覚まさない明王の唇にそっと口づけた。








内緒でキスして
(…今回はキス1つで許してやるよ)



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