お題(小説)

□7.しあわせすぎて怖いよ
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満面の笑みのLを見た。
目の前の有様が理解し切れなかった。

Lの目は月を襲ったとき同様、焦点が宙に浮いていた。
視点は月に向いていたが、まるで月を見ていないのだ。

「らいとくん」

たどたどしい声。
幼い子供が人形遊びをしているのに似ていた。
口元を吊り上げてにたにたと笑う。

L側の部屋はまるで囚人の牢獄だった。
トイレとベッドだけが設置されており、入り口の扉には食事を配膳するためのものであろう口があった。
強いて言えば、ベッドがいくらか上等だったがそれでも自由は微塵もない。

「らいとくん」

再び名を呼んだ。
その瞳の奥からは恍惚ともいえる光がよぎった。
Lはガラスに両手を貼り付けた。
顔も寄せるので鼻が平らに歪む。

「なんで」

かろうじて言えたのはそれだけだった。
かすれて途切れとぎれな声。
すると、Lは突然奇声を上げた。

「ああぁあぁあぁぁ。
らいとくん、らいとくんっ」

唾液を垂らしながら、ガラスを舐める。

「あいしてるぅ、…っんあ、すき、す…きっ」

必死にガラスを唇で吸う。
いく筋もの唾液が流れた。
キスの真似事をしているらしかった。
犬のように息づかいが荒かった。

こんなの僕の知ってるLじゃない。

「竜崎?」

Lはガラスを執拗に舐めるのをやめた。
脱力して月をじっと見つめる。瞬きすらしなかった。

「らいとくん…」

頭を傾けて口を動かす。

「らいとくん、
らいとくん、
らいとくん
らいとくん
らいとくん
らいとくん
らいとくん
らいとくん
らいとくん
らいとくん
らいとくん


らいとくん…」


テープを繰り返し再生するようLはひたすら月も名前を重ねた。

「らいとくん、らいとくん…らい……、うわあああぁああ」

両手で顔を覆った。

「そっか、…でもあれ?
ちがうってば。
らいとくん、さっきのことを…いっしょにはなしてたし」

自分の言葉すら整理できていなかった。
仕切りに自問自答して首を傾げた。

「わかったか、これがいまの竜崎だ」

総一郎が重苦しく言った。
目の前のLは混乱したためか、床に寝転がってぶつぶつと独り言を呟いた。

「え?らいとくんはわたしがすきでー。
だから、あいしてるんだっ、そうだよねえあははははは」


腹を抱えてLは笑い転げた。


「わたしはそうなんだ。
やったやった、あいしてるよっ。
やっぱりあのときにいってくれたもんね。
うふふふ、さいこうだー。
きみはうつくしいよ?
こうかな。
わたしたちはいきているっ」


今までに見たことのないくらいに幸せそうな表情だった。


幸福を噛み締めていた。





彼は恍惚だった。






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