長編作成

□弍*
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駅前での待ち合わせ
日曜日で人も多く
呑まれないように
合間を縫って歩いていくと
真っ黒なあいつが
壁に寄りかかっているのが見えた


「ガジル待ったか?」

「待ちくたびれたぜ」

「悪い悪い」


いつもの調子に落ち着いていると
行こうぜと腕を引かれその場を離れる
人波の多いこの時間帯は
ぶつからずに進むということが難しい
例に漏れずガジルは先程から人に当たりまくっていた
最も相手の方が痛そうなのだけど(当たった所をさすっている)

粗暴な歩き方に見えて
実は自分に人が当たらないようにしてくれているところが
なんだか嬉しかったりする


「こっからどこ行くんだ?グレイ、お前決めろよ」

「あー…、!あそこがいい
俺、Tシャツ欲しいんだよ」

ある程度人波を抜け出たところで店を指差し答えると
怪訝そうな顔を向けてきた


「溢れだすほどあったろが
また買うのかよ」

「だって服はあればあるほどいいだろ?」

「お前なぁ」

「いーじゃん、ほら」

目当ての店の前まで来たのに
通りすぎようとするガジルを引っ張り戻す

扉を開けると挨拶もそこそこに
そのまま掘り出し物のありそうな場所で捜索をする

「いいのねぇかな」

「また変な柄探してんのか?」

「ちがう!"ゆ、る、い"やつ!」

「お前も変だしすぐ見つかんだろ」

「うわ、なんかむかつく」

自分のどこが変だというのかさっぱりわからないが
気持ちの収まりが悪いので硬そうな腕を叩くと
「自覚あるじゃねぇか」とまたこけにされた
むかつく

「お前には期待してねぇもんばーか」

「はいはい」

ガジルには自分の"この"好みがわからないらしい
かといって服の趣味全部が合わないわけではないのだが
こればかりは何故かかすりもしないという

こいつも一回着ればわかるだろうにと
自分の持ってる服を頭の中で宛がってみると
これがまずかった
流石にミスマッチだったやはり「くまさん」なんて着るガラではない

噴き出し震えていると「俺に合うわけねぇだろ」と頭を叩かれた
なんで筒抜けになっているんだ


痛みをさすりながら
ひとしきり漁っていると
ふと目線を落とした先に

笑顔で浮き輪をしているねこ?の後ろに鮫の口が──


「…たまんねぇ」

「やっぱり、な」

「やっぱりってなんだ」


自分の好みを具現化したようなねこだ口の形もいい
口喧しいガジルを放って小一時間見つめていたいほどの喜びに浸っていると大きな手が伸びてきた

「それよこせ」

「えっなに?お前着んの?!」

「バカか?払ってやるつってんだよ」

「なんだ、ありがとな
ガジルは他もういいのか?」

「俺は今あるやつで充分だ」

「つまんねー」


選んだ服を弄って反撃しようと思ったのに残念で膨れっ面すると
うるせぇと頬を摘ままれた


「いてて」

「買ってやるんだからちったあ大人しくしてろ」

「はいよ」

店員の話を淡々とかわして会計を済ませてくれたためさっさと店を出ると
背後でありがとうございましたと声がかかった


「あ、次はさぁ「こっちいこうぜ」

指しているのは裏路地

「性にあってるだろ」

苦笑しながら手を掴まれたので引かれていくと
どんどん周りの影におおわれていき昼間なのに少し薄暗い

「あー、…お兄さんたら早くね?」

出迎えの賑やかな看板はその派手さと裏腹に釈然として動かずにいた




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