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□野菊の花
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夕焼けが出始めた夕刻、鮮やかな緋色で彩られた丘に、二人の少年が立っていた。
その場にはカラスの鳴き声と、木々を揺らす風の音しか聞こえず、その何とも静かな空気に耐えられなくなったのか、美しい髪をした少年、平滝夜叉丸は、隣で野菊を抱いて遠くを眺める少年、綾部喜八郎に話しかけた。
「なぁ、喜八ろ「滝ちゃん」…何だ?」
喜八郎は目線を滝夜叉丸に移し、ポツリポツリと喋りだした。
「今日を…絶対忘れないようにしよう?ずっと、ずっと何年たってもここに来よう…」
そう呟いた喜八郎は野菊をその場に置くと、滝夜叉丸の手を強く握った。「…ああ、絶対に忘れない。忘れたりなんかしてたまるものか」
滝夜叉丸も、喜八郎の手を強く握り返し、また沈んでいく夕陽を眺めながら、ボソッと呟いた。


「さようなら…」
そう呟いた滝夜叉丸の頬を一粒の涙が伝った…
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