■小説1

□大和撫子七変化
1ページ/2ページ

題:「大和撫子七変化」
  [其の壱]
−−−−−−−−−−−
百千鳥もさえずる、三月三日−桃の節句。

此処は、広大な朽木家邸宅内部の隠し部屋。例年の如く女性死神協会による『雛祭り』が開かれていた。ただ昨年と違うのは、現世より猿柿ひよ里、矢胴丸リサ、久南 白(ましろ)も呼ばれて参加している所であろうか。

始まって一時間も経つと酒の力も加わり、皆良い加減に「ほろ酔い」となり、話に熱も加わって来ているようである。
女三人寄ればかしましいと言うが、これだけの人数が集まれば。始まる事と言えば噂話と猥談が主となるようで…
−−−−−−−−−−−
【乱菊】:はぁ〜…やっぱさァ『雛祭り』ってのはいいわよねぇ。女の子のお祭りだから、公然とお酒飲めるしね。たーのしいッ。

【七緒】:はぁ。でも松本さんは色んな事に託けて、お酒飲んでるじゃあないですか。それに『雛祭り』に飲むのは白酒ですよ。松本さんが今飲んでるのは普通のお酒ですからッ。大体飲み過ぎですよ。あんまり騒ぐと此処で宴会やってるの、朽木隊長にばれてしまいますからッ!

【やちる】:わっ!それ面白そう!びゃっくんも呼ぼうよー。みんなでやれば楽しいよ『雛祭りー』。

【七緒】:ちょっ…とんでも無いですよ。黙って場所借りてるんですから、追い出されるのがオチですっ!皆さん、申し訳ありませんが『雛祭り』はこの会場内でお願いします。

【ひよ里】:なんやァ。なんか大変なとこに呼ばれてしもうたんか、ウチら。

【リサ】:ええやないの。こういった機会無いんやし。この際、皆の素顔見たろうやん。

【七緒】:す、すみません。無理を言って、現世からわざわざ来て貰ったのに…

【リサ】:別にええで。誘ってくれて有り難うな。所で、アレ、構へんの?出て行こうとしとるねんけど。

リサの言葉に七緒が振り向くと、やちるが出入り口へと足早に向かっている所であった。やちるは、この邸宅の主−朽木白哉を交えた上での『雛祭り』を、未だ諦めきれなかったのであろう。

【七緒】:草鹿会長ッ!ま、待って…出ないで!ネムさん、会長を止めてください!!

【ネム】:了解しました。

七緒に頼まれ、瞬時にネムの手が回転を始めた。まるでドリルのようである。それを見て、途端七緒は顔面蒼白となった。このままでは、屋敷ごと壊滅的被害を受ける事は必至である。

【七緒】:ちょっ…ネムさん、ストップですッ!!皆さん、こ、此処らでオヤツにしませんか?雛あられが有るんですよ。菱餅やお団子も、用意しておりますので。草鹿会長には、特別にこんぺい糖も。

【やちる】:わぁい、オヤツ〜

途端反転し、席に着くやちる。七緒はホッとし深い溜息をつく。
しばし沈黙し全員席に着き、皆菓子を頬張っている。束の間の穏やかな時間。やはり甘い物には、年齢問わず女性なら誰も目が無いようである。

【ひよ里】:そういやァ、あんたマユリの娘なんやなァ。

【ネム】:あ、はい。

急に思い立ったようにひよ里はまじまじとネムの顔を見遣る。

【ひよ里】:いや、前々から気になってたんやけど…マユリのヤツ元気にしとるんか?うちコッチには滅多に来んさかい、逢うたり出来んからなァ。シンジやローズ、拳西は隊長職に復帰したけど、暫く会えてないんで聞けんしな。なんや喜助のヤツはしょっちゅう遊びに来とるみたいやけど。

【ネム】:マユリ様は元気にしてらっしゃいます。浦原様は…毎晩マユリ様のお部屋へいらしているご様子です。

【乱菊】:へぇ、珍しい。あの涅隊長に友達なんて?まぁ、二人は浦原さんが十二番隊だった頃からの誼みだものね。凄く仲が悪いっていう話、聞いてたんだけど…噂は当てになんないわね。

【ひよ里】:否、嫌ってたんは本当やで。元々マユリの方は喜助を避けとる風やったんやけど。喜助のヤツ、昔から何でかマユリの尻追い掛け回しててなァ。で、ここ暫く喜助の上機嫌が続いとったさかい聞いてみたら、最近マユリに会いに行きよる、て満面の笑みで言うもんやさかい。なんやあの二人、漸く仲良うなったんやなァ。

【ネム】:はい。浦原様は連日、夜毎遊びに来られまして。今ではマユリ様と同じ寝台に入られ、泊まっていかれます。

ネムの言葉に、ひよ里は飲んでいた茶を詰まらせかけ、咳込んだ。

【ひよ里】:ぶはァ、ッ!ゲホッ、ゲホッ…同じ…寝台?って、同じベッドで寝てるんかいな!?幾ら仲良うなったからて…なんや気色悪いなァ、アイツら

【乱菊】:ふぅん、まぁ仲良き事は美しき哉って事で、いいんじゃない?でも、涅副隊長はそれでいいの?普段から『マユリ様』『マユリ様』ってなんか一筋みたいだし。父親取られたような気がして、ヤキモチ妬いたりしない?

【ネム】:そんな事ありません。私はマユリ様の意に沿った行動を取るよう躾られています。嫉妬など有り得ません。浦原様が来られた時は自室に戻り来てはならぬ、との言い付けもちゃんと守っております故。

【ひよ里】:なんや奇妙な言い付けやなァ。ホンマにただ遊びに来て泊まりよるだけなんかいな。他になんか深い意味合いあったりして。二人して悪巧みとか…なんせあの二人、変態科学者同士やからなァ。

【ネム】:いいえ、そんな事は。先日の夜中の緊急召集の際も。私がマユリ様を呼びに行きましたら、お二人は裸で寝台の上にて抱き合っておりましたから。悪巧み等致しておりません。ですが何故でしょうか、お二人共かなり動揺されていたご様子でした…

【乱菊:ひよ里:白(ましろ)】:そ、それって…!?

【やちる】:なぁに…?

安穏と無知な言葉を吐くネム。理解不能なやちるを除き、その場に居た全員が、一瞬にして顔を見合わせた。
−−−−−−−−−−−
[其の弐へ続く]
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ