■小説2

□青イ春ニ君ヲ抱ク−あれから後−
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題:「青イ春ニ君ヲ抱ク−あれから後−」
  [其の弐]
−−−−−−−−−−−
−…しまっ…!!−

浦原に突然唇を奪われ、マユリは酷く動揺していた。
一瞬頭の中が真っ白になってしまったからである。それはマユリが此の一月の間、ずっと避けていた事態であった。

「う、う、ンんッ…ウッ…フ」

幾度か強く吸い上げられた後、合わさった唇から歯列を割って、浦原の舌が侵入して来た。絖った舌先は甘く巧みで、口内をねちこく動くのだ。そんな浦原の舌先に、やがてマユリは心を奪われ、遂には脱力してしまうのだった。

後はもうされるが儘。マユリはたちまち畳の上へと押し倒され、浦原がその上に乗って来た。服が乱暴にたくし上げられ、浦原の掌がマユリの肌を撫で回した。

「ア、アッ…」

そうして。浦原の唇が薄い胸板の微かな突起を捕え口に含むと、マユリは自分の意志と相反し、よがる様な甘い声を上げてしまう。
思わず赤面し、慌てて自身の掌で、グッと口を塞ぐマユリ。と、同時に漸く我に返り抵抗を試み。上よりのし掛かる浦原の屈強な躯を、逃れようときつく押しやり続けるのであった。

「バッ、馬鹿がッ…こんなこと…止め給えヨ…」

息も絶え絶え、声を出すのもやっと、と言うような有様で、マユリは浦原へと叱り付ける。

「どうして?当然の行いでしょ?アタシ達、恋人同士なんスから…」

一方、マユリからの抵抗に合うも、浦原は構わずマユリの突起に舌先を這わせ、舐め回していた。その表情は長い前髪に隠れており見えないが、荒い呼吸音にて、興奮しているのは十分に判っている。

「いいからッ…浦原、貴様止めろと言っているのが聞こえないのかネッ!?」

「………」

自分の意見を受け入れず、無理強いする浦原に、遂にマユリは我慢がならず叱咤するのであった。同意の上なら未だしも、不意打ち、それも抵抗も関係無くで。これでは言いたくは無いが"無理矢理"ではないか、とすら想うのだ。
だが、マユリに叱責され、浦原は不意に黙りこくってしまったのである。

暫くその様な状態が続き、気まずい雰囲気が流れた後である。
やがて浦原はマユリのその身から離れると、たくしあげたマユリの服を元へと戻し、ゆらりと一人立ち上がるのであった。

「……うらはら?」

マユリも半身を起こし、浦原の顔を下より覗き込んだ。此の時マユリは、只ならぬ気配を、浦原から敏感に感じ取っていたのであった。

「……気付いてたんスよ。マユリさん…アタシの事避けてたでしょ?もう、…好きだって気持ち…無くなっちゃいました?」

「−−−ッ…!?」

ハァ、と悲痛な溜息を漏らす浦原。その表情は苦悩に歪んでいる様ですらあった。浦原は掌を握り締めていたが、心許ないのか、握ったり開いたりと妙な動きを繰り返している。
そして、そんな浦原をマユリは食い入るように只ジッと見詰めているのだった。

「ハハッ。実際こうして付き合ってみたら、違っちゃいましたか?それとも…やっぱり男同士スから。こういう事は無理だったりするんスかね?もしそうなら…」

浦原は此の時、自虐的な笑みを浮かべていた。そして、その両手は確かめるように、ギュッときつく握られたのだった。

「こうなってみては、本来ならアタシの方から、潔く身を引く可き所なんでしょう。けど…アタシは浅ましい男スね。マユリさん、貴方を…手放したくない。百年掛かって、やっと…やっと手に入れたんスよ?…諦め切れない……アタシは貴方を…もう諦めたくないんスよ」

それは浦原の本心であった。悲痛な心の叫びであった。

「…そう、じゃない…ただ…」

そんな浦原の苦悩が伝わり、マユリも漸く話す気になった様である。たどたどしくも、何とか想いを伝えようと、一つ一つ慎重に、言葉を選んでは吐き出した。

「当たり前の話だが、私は…女とは違う。けれどお前が私に致す事は、…"女にするもの"と同じに思えた。実際、受け身側としてお前とそうなる事に、抵抗が無いと言えば嘘になる。なのにお前と逢う度に、私は心を掻き乱され、此の身をいいようにされて。…随分と…振り回されている様に感じたのだ。此の私が。それが…信じられなかった…」

「ちょっ、待ってくださいッ!!アタシは…マユリさんを女扱いはして無いっスよ!?好きな人に触れたい、愛したいって事は、同性でも変わらない事じゃないスか!!それにマユリさん反則っスよ!アタシに振り回されてるなんて、そんな…そんな嬉しい告白を今言うなんて。それって…"恋してる"って事でしょう?…抵抗は有っても、事実アタシとそういう事になって。もしかして、ほんとは"駄目では無かった"って事なんじゃあないスか?」

「ウッ。そう…かも知れぬ。確かに、お前を想う気持ちは以前と変わってはおらぬのだ。だが、自信が…それにそれを確かめる機会など…」

「そん、ッ…?ああッ、だったらシてみましょ!?ねっ、今から!!マユリさんッ」

浦原はそう言うと、未だ躊躇しているマユリの痩身を、再び畳の上へと押し倒した。そうして床へと手を着き身体を支え、その頭上より嬉々として、マユリを見詰めて来るのだった。

「嫌だったら言ってくださいね」

それでも一瞬真顔になり、浦原はマユリに囁いた。そしてそんな浦原へ、マユリは小さく頷くと、静かに瞳を閉じるのだった。

「マユリさん、キスは?お嫌い、ですか?」

「…嫌、じゃあ無い…ヨ」

マユリの答えが終わらぬ内に、浦原の顔が被さって来た。そっと触れるだけの口づけが交わされ、離れていく。

「じゃあ、此れは?」

しかし、間を置かずに再び顔が合わさって来、接吻する。幾度が角度を変えて乱暴に吸われた後、湿った舌先がぬとり、と挿し入れられた。舌はマユリの歯列を辿り、上顎を舐め、ゆっくりとマユリのものへと絡み付いた。ねっとりと縺れ合う互いの舌先。溶けるような甘い疼きが、全身を巡る。

「う、…ウンッ…」

それは長く執拗な接吻であった。
やっと唇が外れた時には粘った唾液が溢れ、蜜のように流れては糸を引いて滴り落ちた。
そうして、マユリは何時しか夢心地となっていた。
浦原の指が自身のシャツの前釦を手早く外していた事にすら、全く気付いていなかったのだ。

見る間に袖を引き抜かれ、上着を毟り取られた。白い胸が晒され、既にマユリは半分裸となってしまっている。そうして浦原は首筋より唇を這わせ、その肌を舌先で丁寧に愛撫した。浦原が舐めた唾液の跡は、マユリの肌を淫靡に濡らし、てらてらと卑猥に光らせた。

「ハァ…次は、此処っスよォ」

浦原はそう言うと、マユリの胸の突起へと口を付けた。長い舌先を伸ばし、ぺろぺろと猫のように舐め回した。そしてその小さな先端を、口に咥えては甘く噛み、チュパチュパと音を発て、しつこく吸い付いていたのである。

「アッ…イッ…」

マユリは遂に堪りかね、思わず声が漏れ出てしまった。恥ずかしさからか、全身が熱を帯びているようで熱い。

「イヤ?…駄目っスか?」

マユリの顔を覗き込み、少し不安げに浦原が聞いてくる。だが、その指先はマユリのもう片方の突起をその儘弄くっているのだから、始末に終えぬ。そう、浦原は今この行為に夢中になっているのである。つい今しがたまでは酷く苦悩し、別れたく無いと駄々をこねていたというのに、だ。
そして、そんな浦原がとても可笑しく。此の世界の誰よりも愛おしく感じてしまうのだから、全く以て不思議であった。

マユリは想っていた。自分は間違っていた、と。もしかして、「愛」や「恋」などというものは、驚く程に単純で、明解なものであるのではなかろうか、と。

−浦原、お前とのことも…何も悩みあぐねる事など無かったのではないか?お前の言うように…お前に触れたい、愛されたいと、只それだけ。その事だけを考えていれば良かったのではないか?

ならば。ああ浦原、やはりお前には敵わぬヨ。私は自分の事ばかりで、お前を振り回してしまった。不安にさせてしまった。浦原…−

「マユリさん?やっぱり、あの…もし嫌なら…」

返事をせぬマユリを気遣い、浦原が声を掛けて来た。マユリの様子を伺って、眼を細めて見詰めている。

そんな浦原の頭髪へ、マユリの細い指が、突然触れた。やわい金髪を梳くように撫でてやり、手を伸ばして頭を引き寄せ、自ら顔を近付けて接吻した。
マユリからの唐突な口づけに、浦原は驚いた風であったが。何時しか浦原は我を忘れ、マユリとの接吻にのめり込んでいった。マユリの白い裸身に指先を這わせ、ズボンの中の下着の内へと忍ばせた。
そうして口づけは淫らなものとなり、いやらしくぬちゃぬちゃと、粘った水音を発てていた。

「う、ハァァ、ッ…マユリさん。アタシ…もうッ…」

唇を外し、浦原は懇願していた。先程の接吻で、欲望の箍が外れ掛かっているのだろう。

「−−−−うら、はら…」

此の先自分達がどうなるか。それをマユリは疾うに知っていたように想う。
此の時、マユリは心を決め、浦原の名を呼んだのだった。
−−−−−−−−−−−
[其の参へ続く]
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