■小説1

□恋人になりたい
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題:「恋人になりたい」
  [其の壱]
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瀞霊廷−技術開発局内、研究室。

「…はぁぁっ…」

その日、十二番隊隊長兼技術開発局局長、浦原喜助は本日十回目の溜息をついていた。
机の上に頬杖を付き、瞳はぽんやりと何を見ているか解らぬ様で何とも呆けた顔である。今喜助はある一つの事を解決できぬ現状に悩んでいるのであった。
そんな喜助の前に歩いて来たある人物。長い金髪を赤いゴムで縛ったツインテールの少女が、いきなり浦原の机を思い切りばしんと叩いたのである。

「ああッ!もうッ!!なんやねん、喜助ェ。新しい霊具の開発の仕事、進んどんのかァ?さっきからうっとおしい溜め息ばかりつきおって!幸せが逃げてまうでェ」

毒舌を吐いたのは、十二番隊副隊長であり、技術開発局研究室長の猿柿ひよ里である。先程から何度も溜め息をつく浦原に苛々が募り、我慢出来なくなったようだ。眉間には青筋が立っている。

「あッ、ひよ里さん。今戻られたんスか?お疲れ様っス」

ひよ里は喜助に頼まれて、今開発途中の霊具のサンプルを一番隊隊舎まで届けに行っていたのだ。

「聞いて下さいよ、ひよ里さん。はぁ…実はボク、悩んでるんスよォ。最近ある人の事が気になってしまって…気付けばいつもその人の事考えてしまうんス。こんな事初めてで…一体何なんでしょうねェ、この気持ち…」

ひよ里に怒鳴られても喜助は相変わらず溜め息をついて、表情は暗い。いつも飄々と…というかへらへらと掴み所の無い浦原だったが、それでも普段は常に笑顔でありこんな顔をするのは珍しい。ひよ里は重傷やなァ、これは…と流石に心配になってきた。

「いえね…相手の方は元々冷めた人なんスけど。ここの所、話し掛けても殆ど返事してくれないですし。お昼ご飯や飲みに誘っても断られてばかりなんス。…ボク嫌われちゃってるんスかねェ」

ひよ里はふんふんと喜助の悩みを聞いてやっている。

「でもソイツ、冷めとんのやろ?だったら誰に対してもそんなんで、喜助だけにそんな態度取ってるんと違うんやないかァ?」

「それが…違うんスよォ。その人、いつも一緒に仕事してる相手がいるんスけど、その相手とは仲良いみたいなんス。ボクそんな二人見てると…何だか胸の辺りが靄靄しちゃうんス…はぁ…」

聞いててひよ里はぴんときた。何処かで聞いたようなこの話、この雰囲気。

「喜助ェ、それは恋ちゃうかァ?お前、その相手の事好きなんやで、きっと」

「…エ?」

驚いて目を丸くする浦原にひよ里はにやりと意地悪そうな笑みを返した。

「こ、恋っスかァ?…でも…」

相手は…と、言いかけた時研究室に一人の男が入って来た。目立つ藍色の髪に白粉で塗られた肌、目の周りには黒く化粧が施されており特異な風貌である。
その人物は十二番隊の三席であり、この技局の副局長である涅マユリであった。マユリは書斎に行っていたのか、両手に数冊の分厚い本を抱えて戻って来ていた。
浦原はマユリの姿を認めるとぱあっと表情が明るくなり、何故だか焦って立ち上がってしまった。喜助の椅子がかたんと音を発てる。

「マユリさんッ…あ!」

嬉々としてマユリに声を掛けようとした浦原だったが、マユリの背後に本を手にした幼い阿近の姿を認めると一瞬にして表情が暗くなった。

−また一緒だったんスね−

喜助は自分の胸の辺りがきゅうと締め付けられるような感じがして、思わず目を細めた。
そうして確信したのである。

「ひよ里さん、確かにそうかも知れないっス。ボクその人の事…好きなんだと思います」

−だってこんなにも胸が苦しい−

「ほうほう。喜助、お前もやっぱり男やったんやなぁ。ま、今は辛い状況みたいやけどな、そのうちに相手も振り向いてくれる事もあるかもしれんて。…まぁ恋の悩みならまたいつでも聞いたるで!恋人になった暁にはうちが盛大に祝ったるでなァ」

ひよ里はにまにまと喜助に言いたいだけ言うと、マユリ達と入れ代わりに部屋を出て行った。

喜助の脳裏にはひよ里の言葉だけが残された。
恋人になった、暁…?
こいびと…ボクとマユリさんが…?
思ってもいなかった事である。只でさえマユリに避けられている自分であるし、よく考えてみると男同士…成就するのは極端に難しい状況である。
だがもし…マユリと恋人になれたら…あぁ、それはどんなに素晴らしいことだろう。毎日がどれ程楽しく満ち足りて輝いてる事だろうか…。
喜助はマユリとのそんな未来を思い描き、つかの間の空想世界での二人を妄想した。
そして、自分の気持ちに気付いた今、喜助は躊躇なく行動を起こそうと決めたのである。
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[其の弐へ続く]
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