■小説1

□伝令神機に恋をして
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題:「伝令神機に恋をして」
  [其の壱]
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「これは…何だネ?」

眉をしかめて呟いたのは十二番隊隊長であり、技術開発局局長の涅マユリである。隊首室であり自室であるここで、今マユリはある一つの箱の前で思案していた。

それは今しがた副隊長である涅ネムが持って来たマユリ宛ての小荷物である。
小箱と言ってよいサイズで、現世のよく見かける茶色い包装紙で包まれている。

瀞霊廷
十二番隊隊舎内技術開発局
涅マユリ様 宛

箱の表にはマユリへの宛名が書かれてあるが、差出人の名は無く、誰からか不明である。
マユリは常日頃他人から恨みを買う事も多数ある為、その行動は非常に用心深い。故に荷物は開封されておらず、先程から小荷物を前にマユリは正に「睨めっこ」状態であると言っていい。
ネムの話によると技局の第一研究室の卓上に置かれていた物らしい。よく見ると切手も郵便の刻印も無く、誰かが直接置いた物と考えられた。と、なると余計に怪しいではないか?…もしや爆発物などよからぬ物が仕掛けられているやもしれぬ、とマユリは思考を巡らせた。
そっと荷物に耳を当ててみる。いや、マユリの耳は改造されており正確には耳であった代物だ。聴覚を最大限に引き出すそれを持ってしても、中からは何の音も聞こえては来ぬ。時限装置のような類は、最悪入っていないようである。

「仕方ない…開けてみるかネ」

マユリは、ここに来て漸く開封する事に決めたようであった。

ガサガサと茶色い紙を外すと中には白い箱が入っていた。そしてそれを開けるとクッション材に幾重にも巻かれたピンク色の電子機器。
現世での携帯電話に似た形態のそれは、ここ尸魂界にもあり「伝令神機」と呼ばれている。通信機器である事は、携帯電話に似てはいるが、実は対虚用の探索装置等を内蔵していて、その実態は似て非なる物である。
小箱の中の物体は、どうやらこの「伝令神機」であるようだ。
ぺりぺりとクッション材を外し中身を取り出すと、ピンク色の伝令神機は突然心地いい音色を奏で始めた。本体がチカチカと発光している。どうやら着信があったようだ。新手のテロかもしれぬ、瀞霊廷あるいはマユリ自身に対する復讐か。
マユリは警戒しながら電話に出た。

「…誰だネ?」

「…さて、誰でしょ。マユリさん分かりますぅ?」

「………」

相手は意外にへらへらと間の抜けた声である。それを聞いてマユリは一番思い描きたくない男の、ニヤケた顔が直ぐさまに浮かんで来た。
現世にいる金髪のニヤケた下駄帽子男。

「う、浦原ぁッ!!貴様ッ、いきなりこんな物を寄越して来て、一体どういうつもりだネ?エ?!」

「アレ?すぐ解っちゃいましたか。やっぱり愛の力っスかねぇ」

喜助はマユリの怒声などお構い無しといった風である。

「いえね、黒崎さんが所用でそちらに行く事になりましてね。ついでと言っては何ですが、アタシからマユリさんへのプレゼントを届けて貰えるように頼んだんスよ」

「…プレゼント?」

「はい。少し早いですけど…マユリさんお誕生日おめでとうございます」

そうだった…明日三月三十日は自分の誕生日であった。此処の所、多忙を極めるマユリは自分の誕生日をすっかり忘れてしまっていたのである。

「ハァ…紛らわしい事を。それならそうと、もっとすぐに判るような物にしておき給えヨ」

マユリは溜め息をつきながら毒づいた。相変わらずこの男のする事は理解不能だと、半ば呆れてもいる。

「ハハッ、スミマセン。でもマユリさん普段伝令神機持たない主義なんでしょ。だからぜーったい持ってないと思ってプレゼントする事にしたんスよ」

「…使わない物を貰っても仕方ないヨ」

そう、マユリは伝令神機を持たない主義なのである。技局の阿近からは、何かあった時の為の通信手段として幾度も薦められたが、マユリはそれを頑なに断っていたのだった。ある理由をもって。

「フフ。でもこれからは持って貰いますよォ。今日渡した物は一般の伝令神機とは違う物なんス。尸魂界の伝令神機と現世の携帯電話の機能を融合した物なんス。アタシのオリジナルっスよォ」

「………」

「対虚用探索装置やいざという時の為の危険察知機能、霊子分析機能など、諸々が付いてます。伝令神機としては十分な能力ですがね、現世の携帯電話の機能…通話やメール、3Dホログラム動画写真等のやりとりを尸魂界と現世両方から出来るようにしておきました。フフ。マユリさんこれでアタシの所に連絡してくださいね。アタシもこれと同じの持つ事にしたんス。ちなみにアタシのはモスグリーンなんスよォ」

マユリの意見などお構い無しというような喜助の態度に、さすがのマユリも憮然とした声になる。

「持たないと言っているだろう。大体何で貴様とそんなメールのやり取りなどしなければならないのだネッ!」

「アレ?だってアタシ達、恋人同士でしょ」

フフと浦原は楽しそうに笑っている。

否定も肯定も出来なかった。浦原との逢えない時間が長すぎて、マユリが忘れ掛けていた事実。
浦原とマユリは100年程前までは恋人として付き合う仲であった。それが喜助が無実の罪を着せられ現世に追放されて、互いに音信不通となっていたのだ。四十六室の判定により、霊力を剥奪された浦原は、どんな力を持ってしても尸魂界には踏み入る事が出来ぬ刑罰が課せられている。諸悪の根源の藍染を倒した今でもそれは変わらず、喜助はどうやってもマユリのいるここ尸魂界へは来れないのである。
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「其の弐へ続く」
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