■小説1

□じゃじゃ馬馴らし
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題:「じゃじゃ馬馴らし」
  (注:性的表現有り)
  「其の壱」
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その日、十二番隊隊長兼技術開発局局長である涅マユリは、自室である隊首室のパソコンの前にいた。

今は昼休憩の時間である。
食事を早めに済ませたマユリは、この所日課の如く自室に篭りパソコンのキーボードを叩いている。
それにはある理由がある。

実は、数ヶ月前よりマユリは現世でいうテキスト系のサイトをやり始めたのである。元々瀞霊廷通信で連載をしているマユリの「脳にキく薬」は好評で、封書によるファンレターは週に段ボール箱一杯が届けられる。その内容は、連載文に感動したと言う者もいれば、好きだ、愛してるだのと、マユリに心酔し身の程を知らぬ輩からの下らぬ内容からと様々であった。が、こうして読者からの意見を聞く事が出来る故、マユリ自身時間があればその書簡らに目を通している程気に入っていたのである。

そうして、マユリはよりこういった意見を聞く為サイトを立ち上げたのである。始めてみて、自身の言動に直接意見が返って来ると言うのはまた書簡とは違う生々しさがある。中にはマユリが驚くような意見を言う者もいて、姿形は見えぬ相手とそういったやり取りをする事が此処暫くの楽しみとなっていた。その閲覧数も今では恐ろしい数字となっている。

「ん?此奴また来ているネ…」

見るとそこには[あなたの襟巻き]というハンドルネームで文章が送られて来ている。
文章から察するに男のようだが、この男、元は書簡でファンレターを寄越して来ていた者だ。マユリがサイトを始めると何処から知ったのか直ぐに現れ、毎日のようにやって来る。
驚くのはその内容で、実験研究に関しての意見等はその知識の深さにマユリが感嘆した程博識であったのだ。とにかくこの[あなたの襟巻き]という男は、今マユリが非常に興味を持っている相手なのである。

−こんにちは涅サン。今月の瀞霊廷通信読みました。連載の脳にキく薬、良かったです。特に新薬開発の所の内容…丁寧に書かれてあり非常に参考になりました。−

−ホゥ。参考と言う事は君も実験をやるのかネ?−

この男[あなたの襟巻き]の言葉にマユリは即行で返事をした。書簡から数えれば数年という長い付き合いであるが、毎回送られて来るのは連載内容に感動した事や、質問等で、実際に実験研究をしているとは知らなかったのだ。

−あぁ、ハイ。実は昔からこういった実験研究が好きでして。後、貴方にも興味が…−

返事は直ぐに送られて来た。男の文にぴくん、とマユリの眉毛がひくついた。

この男、今まではそういったあからさまな物言いはしなかったが?此処で互いにやり取りを重ねるうち本心を出して来たのだろうか?

−私に興味があると?それは科学者としての興味かネ?−

−いやぁ、科学者としての貴方の素晴らしさはよく解っています。興味があるのは貴方自身にですよ、涅サン−

−私の、どういった所にだネ?教えて貰おうじゃないか−

−そうですねぇ、例えば恋人はいるのか。いればその相手はどんな人なのか、とかですか。後、デートとか…行きたいとこって何処ですかねぇ−

この男の言葉に、マユリの頭にはチラ、とある男の顔が浮かんだ。
浦原喜助−それは現世にいるマユリの恋人である。ある事情で一旦音信不通となっていた浦原だが、無事再会を果たし、今では夜ごと忍んで此処尸魂界へマユリに逢いに来る間柄なのである。
という訳で、実際は浦原という恋人がいるマユリであるが、相手に真実を伝える事もあるまいと伏せておく事とした。

−ム。恋人は…いないヨ。デートかネ…普通に食事とか買物がいいヨ−

−そうですかァ。恋人はおられないのですね。なら、一度お会いしてみたいのですが。お食事でも如何です?−

男の突然の食事の誘いにマユリは戸惑った。男は今までこう言った行動を起こして来た事が無かっただけに、不思議であったのだ。だが、長年やり取りを続けるうち、妙に親しみを感じていたのは事実で有り。マユリはこの男に逢ってみたかったのである。ましてや、実験研究に非常に興味を持っているらしい相手である。腕次第では技局に入れてもよいのではないか、と思ってみたりも致し、マユリは逢う事を決めたのである。

−構わぬヨ。何時がいいかネ?−

−では、今晩七時。料亭「胡蝶」で−

−了解した−

かようにしてマユリは男と逢う事となった。
そもそもマユリはネットで知り合った相手と逢うのは初めてであるのだ。ネットではネカマという男であるのに女子の振りをする者もいると聞く。この男はその逆で女子であったりしないか等と、後々になって色々と考えが沸いて来、マユリはその後の仕事に集中出来ぬ有様であった。

バタついた仕事を漸く切り上げ、突然の外出に不思議がる局員らに言い訳を致し、マユリはなんとか外に出る事に成功した。

料亭「胡蝶」は中々に立派な構えの店であった。
中に入ると女将に案内され、個室への長い廊下を歩く。
恋人である浦原へ申し訳ない心も少しはあったが、今は長年やり取りを続けたこの相手への興味が勝る。

「失礼致します。お待ちの方がお見えになりました」

女将が障子を開けると相手が背を向けて座っているのが見えた。
−−−−−−−−−−−
「其の弐へ続く」
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