■小説1

□Blue Film
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題:「Blue Film」
  (アニ鰤第298話パロ)
  (注:性的表現有り)
  [其の壱]
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「映画を作る…だと?」

十二番隊隊首室兼自室にて、隊長涅マユリは一人掛けのソファーに座っていた。ここ暫く研究が多忙であった為に昼休憩の今、しばしの間身体を休めようと自室へ戻っていたのである。

「はい。瀞霊廷国際映画祭に向けて各隊及び個人にて映画を作る事と、本日の会議で決定致しました。各隊はそれぞれ自隊の特色を活かした作品を撮るようです、マユリ様」

返事をしたのは副隊長である涅ネムである。ネムは先程まで会議に出向いており、その報告をマユリに伝えに来たのであった。ネムの脇には同じく会議に参加していた阿近も控えている。

「作品は映画祭で上映され、優勝すれば多額の賞金が出るようです」

賞金、と聞いてマユリの眉がぴくりと上がった。実は此処の所の大掛かりな研究で技術開発局の財政は逼迫していたのである。映画を作る等と全く興味が無かったマユリであったが、賞金は喉から手が出る程欲しかったのだ。

「そうかネ。各隊も参加するのであろう?ならうちの隊が出ない訳にもいかないネ。参加するなら本格的な作品を作るとしよう。そうだネ、我が十二番隊は特撮でいこうじゃあないかネ」

本来凝り性なマユリである。映画祭に参加する、しかも優勝を狙うとなると下らぬものは作りたくない。作品についての閃きはたった今話を聞いたというのに、マユリは既に構想が沸き上がって来ていたのである。

「特撮、か。いいネ。我が隊にぴったりではないかネ。例えば…そうだネ、人体改造手術を受けた死神が究極の力を持ち、下らぬ輩を血塗れにする…等どうかネ?」

「素晴らしいです、マユリ様。キャストはやはりマユリ様が主演という事でしょうか?」

「フム。残念乍私は素顔を曝したくないのでネ。阿近はどうかネ。お前中々に女子の受けがいいようじゃあないか」

「げぇッ!た、隊長ッ!!俺、そんなの無理ですからッ!!」

ネムの隣にいた阿近は、思わぬ事で自分にお鉢が回って来てあたふたと動揺した。普段何事にも冷静な対応を取る阿近であるので、このような事も珍しい。

「これは我が十二番隊と技局の威厳が懸かっておるのだヨ。隊長命令だ。阿近お前が主演を務めるのだヨ。私が監督し、クリーチャー等はネムと鵯州に任せるとしよう。早速準備に掛かるんだヨ」

かようにして「瀞霊廷国際映画祭」の十二番隊の作品は決定した。この日から数日間、十二番隊及び各隊は何を押しても映画作りに勤しむ事となったのである。
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十二番隊が映画祭参加を決めたその日の夜。

風呂から出たばかりのマユリに伝令神機の着信音が聞こえて来たのである。
相手は現世にいる恋人、浦原喜助であった。

「あッ、マユリさん。アタシっス」

「何の用だネ?」

「…つ、連れないっスねぇ。マユリさんここ暫く研究で忙しいって中々逢ってくれなかったから、アタシから連絡したんスよォ。今、部屋っスかぁ?なら今から逢えませんか?…逢いたいっス」

そうであった。
ここ暫く嵐のような忙しさで、マユリは浦原の誘いを悉く断っていたのである。よく考えれば明日からは通常の研究に加え、映画まで作らねばならぬのである。今日を過ぎれば浦原と過ごせる時など当分無いように思われた。

「仕方ないネ。今から行くヨ」

マユリはその夜、浦原からの誘いに乗り、現世に逢いに行く事にしたのである。
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「マユリさん何か飲みます?日本酒っスか?それとも焼酎…」

「要らないヨ。何時もの玉露を出し給エ」

「色気無いっスねェ」

そう言い乍も、浦原は急須と湯呑みを載せた盆を持ち、部屋奥からマユリの元へ近付いて来る。
そうして、火燵と兼用している四角い机に座しているマユリの斜め向かいに、浦原もまた胡座をかいて座った。

「明日からまた忙しいんでしょ?『瀞霊廷国際映画祭』十二番隊も参加するんですよね?」

「知ってたのかネ?」

「そりゃ、もう。貴方の事なら何だって…って言いたいんスけどね。実は映画祭にうちの店、協賛してるんス」

「ブフッ…!!貴様、尸魂界に出入り禁止では無かったのかネッ?」

浦原の言葉に、マユリは口に含んだ茶を噴き出しそうになり、慌てて口に手を当てた。

「イヤァ、百年前の事件の真相が解ってから総隊長が上手く取り計ってくれてるようでして。今回特別にこの『浦原商店』の名で協賛を許されたんスよ。だもんで、この映画祭の金銭的援助をうちもしてるんス」

つまりは映画祭の賞金の一部は浦原商店から出ると言う事か、とマユリは溜め息をついた。
ネムの話では瀞霊廷は実際赤字であるらしいのである。その事態を打開する為、一般受けする娯楽である映画を作り、収入を得ようとの計画であるのだ。つまりは浦原もその儲け話に一口乗ったのであろう。

「十二番隊は特撮映画なんスよね?マユリさん主演っスかぁ?」

「主演は阿近だヨ。私は監督に徹する筈だったのだが。隊士達や局員らの要望が強くてネ…部分的に出る事になったヨ。阿近を改造する科学者の役だ」

「お?それは楽しみっス!!映画祭当日はアタシも審査に呼ばれてるんスよォ。是非とも見てみたいっス!」

浦原はいかにも楽しみと言った様子で瞳をきらきらと輝かせている。いい気なものだ、こちらは研究費が懸かっているのだ、とマユリはふん、と鼻を鳴らした。

「審査員なら元十二番隊隊長として、我が隊に一票を投じるのが責務だと思うがネ」

「アレ?マユリさん不正はいけませんよ。アタシは当然公平に行きます。何せ審査員スからねぇ」

にやにやと笑う浦原にマユリは内心憤慨した。
だが、解っているのだ、それは嘘であると。マユリが出演しているというだけでも浦原に取ってみれば正に「お宝」映像である。どうせ後でフィルムを欲しがるに決まっているとマユリは理解していたのである。

「マユリさん、今日泊まってくんスよね?」

浦原の手が卓上に置かれているマユリの手にそっと重ねられた。ぴく、とマユリの身体が過敏に反応する。

「泊まってって…欲しいっス」

浦原の黒い瞳はマユリを捕らえていた。
やがて浦原の顔がマユリの顔にじわじわと接近してくる。
そうして浦原の温い息が頬に掛かると、マユリは静かに目を閉じたのである。
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[其の弐へ続く]
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