■小説1
□相思相愛
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題:「相思相愛」
(注:性的表現有り)
[其の壱]
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「ど、どうっスかね?此なんか、ッ…イイんじゃないスかぁ?」
「ム、う…無理ッ…無理だヨォ…うらはらッ」
「だ、大丈夫ッスヨォ。めちゃくちゃイイっスから。だから、ね、マユリさんッ…」
「だ、駄目だッ…」
「マユリさんッ」
「駄目だと言ってるんだヨォッッ!!」
マユリの怒声と共に投げ付けられた分厚いその冊子は、見事ヒットし浦原の頭に巨大なタンコブを作らせた。
「いだあぁぁッッ!!…ひ、酷いっスよォ、マユリさぁん」
此処は現世「浦原商店」居間。
頭を抑えながら立ち上がり、浦原は雑誌を手に再びマユリの前に近付いた。座卓の上に閉じたままの本を置き、溜め息をつき乍マユリの横にどっかり、と再び胡座をかく。
「ハアァァッ…一体何が気に入らないんスかァ」
「気に入らなくて当然だヨッ!何故私がこのようなッ…女子のような格好をしないといけないのだネッ?エ?」
マユリは卓上に置かれた雑誌をバシバシと激しく叩きつけた。見るとその本の表紙には「ブライダル特集」と書かれてある。
「嫌ですねェ、もう忘れたんですかァ?この間、アタシが一緒に住む事提案したらマユリさんオーケーしてくれて。で、その場所で指輪の交換もしたじゃあないですかァ。つまりアタシ達はあの時『永遠の愛』を誓ったんス。こうして『浦原商店』を改築して二人の新居完成まで後僅か、て事で…せっかくだから皆さんにお披露目してきちんとしたい、って。アタシが話したら、マユリさんだって了解したじゃあないですかァ…」
「だからと言って何故私がこのような…ヒラヒラした物を着なければならないのだネッ?理由を述べ給えヨッ!」
「いやァ、やっぱ披露パーティーですからその方が盛り上がるかと。てか、アタシがマユリさんのドレス姿見てみたいんスよね。マユリさんホラ端正な顔立ちしてますし、線も細い。きっと綺麗っスよォ。あ、でも和装がいいって言うんならそれでもッ。綿帽子とか…慎ましやかでイイですもんねェ…はぁ」
浦原は頭の中で妄想でもしているのであろう。いかにも嬉しそうに、頬を赤らめている其れを見ると、マユリはぞくぞく、と何やら言い知れぬ悪寒が走るのである。
「ホ、ホゥ、ではお前は何を着るつもりだネ?やはりドレスなのかネ?」
「アタシっスかぁ?フフ、マユリさんに合わせますよォ。タキシードか羽織袴ですかね。…でもやっぱり袴がいいっスかねぇ。ホラ、アタシって『和』の印象あるじゃないですかァ」
「ハァ…なら、私も羽織袴がいいと思うのだが」
「駄目っス。却下します!」
「………」
此では何時まで経っても平行線のままではないか、とマユリは深い溜め息をついた。
このような事は一生に一度の事であろうし、浦原なりに夢や願望があるのは理解出来る。だが、それを押し付けられるのは御免なのだ。ましてや自分は男であるのだから、あのような服装は御免被る。一応自分としては、浦原の要望に応えて「披露パーティー」なる物を開く事に賛成した。なのであるから、浦原とて自分の希望を受け入れてくれてもいいではないか、とマユリは思う。
元々浦原は見目の好さと仔犬のような人懐こさで、いつの間にか自身の都合の良いように物事を運ぶ。その要領の良さにマユリは些かコンプレックスを感じていたのである。
マユリは無言で座卓に手を着くと、静かに立ち上がった。
「あれ?マユリさん、どちらへ?」
「…帰るんだヨ」
「え?エエッ!今日はこっちに泊まる予定じゃ…?」
「気が変わったのだヨ」
「だ、駄目っスよォ。もう夜も遅いですし。それに夜道の一人歩きは危ないですからッ。マユリさんに何かあったらいけないですから、ね?」
何を馬鹿な事を…私を誰だと思っているのだ?と、マユリは口から出ようとする言葉を飲み込み、幾分呆れながら浦原の顔を見下ろした。
不安げな浦原の漆黒の瞳は、マユリを恋うように一途に見詰めている。
見るのではなかった、とその瞬間マユリは後悔した。浦原のこの縋るような目を見ると、どうにも赦してしまうからである。
そうしてその心の動きを敏感に感じ取ったのか、浦原は、ずい、とマユリの前に身を乗り出してくる。
「マユリさん、行かないで…ね?」
長い腕が伸ばされ、マユリの手を掴む。
「あ…」
立ち上がり身を寄せられ、ぎゅう、と抱きしめられる。浦原の匂いに包まれたかと思うと、首筋に柔らかい浦原の唇がちゅう、と吸い付いた。
「つかまえた…」
それからは当然の成り行きであった。
マユリは唇を奪われたまま畳に押し倒され、襦袢の胸元に手を差し入れられた。元々泊まる予定であったマユリと浦原は既に風呂を済ませ、寝巻姿であったのだ。胸板を舌で舐め回され、突起をちろちろと舌先で愛撫されると、マユリは慌てて抵抗を始めた。
「う、浦原ッ。いけない…このような場所で、ッ…お前の部屋に行って。あそこでなら…」
「ん?別にいいじゃ無いスかァ。ハァ…マユリさん、焦らさないで。アタシもう限界っスから」
「馬鹿ッ!他に同居人がいるのだヨッ。気付かれないようにしないと」
「ああ。なら大丈夫っスよォ。もう夜中ですし子供達は寝ています。テッサイさんは万一気付いても知らない振りしてくれるでしょうし」
にこり、と微笑んで浦原は再びマユリの突起をしゃぶり始めた。マユリが欲しくて堪らず、今浦原は興奮状態にある。もうこうなると誰も浦原を止める事など出来ないのである。
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[其の弐へ続く]