■小説2
□弥生、三月、春麗ら
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題:「弥生、三月、春麗ら」
[其の壱]
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技術開発局第七研究棟内、マユリの自室。
【浦原】:マユリさん!お誕生日おめでとうございますゥ!
【涅】:突然、何だネ?
【浦原】:やだなァ、忘れてるんスかァ?今日は三月三十日。マユリさんのお誕生日じゃないですかァ。
【涅】:そうだったかネ?
【浦原】:そうっスよォ。自分の誕生日くらい忘れないでくださいよォ。ね、ね、今日はアタシとずっと一緒に過ごすって約束でしたよね?アタシずーっと楽しみにしてたんスよ。
【涅】:(そんな約束してたかネ?)フム、仕方ないネ。なら、これからどうするか。
【浦原】:せっかくですから、何か美味しい物食べに行きませんか?アタシいい店知ってるんスよォ。
かくして。浦原とマユリの二人が、マユリの自室より出掛けようとした時であった。
扉を開けた途端、ネム、阿近、リンの三名とばったり鉢合わせとなったのである。
【ネム】:マユリ様、何処かへお出掛けになるのですか?
【涅】:ウム。コヤツが外へ食事に行きたいと言うからネ。暫く留守にするので、後は頼むヨ。
【リン】:え!?そ、それは困りますっ!
【阿近】:隊長。今日は時間を空けて欲しいと前々から頼んでおいた筈ですが。お忘れになったので?
【涅】:そう言えば…何か仕事の予定が入っているのかネ?確か作業は昨日で一通り終えた筈だが。
【ネム】:マユリ様。そういう事では無いのです。
【涅】:では、どういう事だネ?
【ネム・阿近・リン】:……。
【涅】:私に言えない事かネ?そういった事なら協力出来ぬヨ。このまま出掛けるとしよう。
【リン】:ま、待ってくださいっ!涅副隊長、阿近三席!この際、もうほんとの事言っちゃいましょうよ!このまま隊長が出掛けてしまったら、っ…せっかく準備したのに。皆さんガッカリしますよぉ。
【涅】:準備…。
【阿近】:壺府、お前ッ!?ハァ…仕方ない。涅副隊長から言ってください。お願いします。
【ネム】:マユリ様。実は本日、内密にてマユリ様のお誕生日パーティーをと企画していたのです。第五研究棟内にて局員と隊士全員が、既に集まっております。
【涅】:それは…困ったネ。私の身体は一つしか無いヨ。
【阿近】:良い方法があります。以前、因幡影狼佐が残していた研究用のサンプル−アレを使えば簡単に解決しますよ。そちらの方には隊長の霊骸に相手して貰って。涅隊長はこちらのパーティに参加してください。
【浦原】:ちょっ…どういう事っスかァッ!?勝手に決めないで欲しいっス!なんでアタシの方が、霊骸相手なんスかッ!?
【阿近】:多数決ですよ。この場だけでも3対1。第五研究棟には局員及び隊士全員が隊長を待ってるんです。多勢に無勢−理解して貰いたいものですね。
【浦原】:あ…阿近クン。む、昔の誼みじゃあないスかァ。もし、パーティーの主賓で霊骸のマユリさんが出たとして、阿近クンが黙ってたら誰も気付きませんよォ。だから、ねッ。マユリさんはアタシと…
【阿近】:ハァ。都合良く、俺に昔の恩を売るのは駄目ですよ。それに隊長には元々こっちが約束してたんですから。
【ネム】:(手帳を見ながら)今確認しましたが。マユリ様のスケジュールに、本日浦原様との約束は入っていなかったように見受けられます。
【涅】:そうなのかネ?
【浦原】:ウッ…イタタタタ、ッ…ア、アタシ…なんだか急にお腹が、ッ!!ハァハァ…
【涅】:腹痛か、それはいけないネ。フム。浦原、お前は体調が落ち着く迄、私の部屋で休んでいるといい。その間、私はこれからパーティーへ顔を出す事とするヨ。
【浦原】:へ?エ…エエッ!?そ、そんなァ…あ、あんまりっスよォ、マユリさァん…
【阿近】:直ぐにバレるような嘘ついたりするからですよ。元上司だと思うと非常に残念な行為です。さ、隊長。行きましょうか。
【浦原】:あ、待ってくださいッ!阿近クン、マユリさんの霊骸はッ?さっきの話だと、マユリさんがパーティーに出た場合は、アタシの担当は霊骸のマユリさんなんスよね?約束は守ってくれるんスよねッ?
【阿近】:霊骸相手は嫌なんじゃあ無かったんですかね?てか、何考えてるんです?まさか…
【浦原】:ち、違いますよォ、体調悪いもんスから、看病して貰おうと思っただけっスよォ。なにせ、相手は霊骸であれど、マユリさんっスからぁ。
【阿近】:一体何処を看病して貰うつもりなんです?ハァ…そんな相手に霊骸の隊長でも、みすみす渡す訳にはいかないんで。残念ながら、貴方は大人しくこの場にて、休んでいてください。
【浦原】:そ、そんなァ…約束が違うじゃあないスかァ…
【涅】:では、行って来る。なに、少しの間だ。それまで身体を厭い給えヨ、浦原。
可様にして。浦原の『誕生日のマユリを一日中独占する企み』は脆くも崩れ去る事となった。残された僅かな救いの、霊骸マユリとの卑猥な下心も見透かされ。浦原はただ悶々と、マユリの自室にて過ごす事となったのである。
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[其の弐へ続く]