■小説2

□愛しき君は美しい
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題:「愛しき君は美しい」
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此処は開発局内第七研究棟にある涅マユリの自室である。

個人の部屋と言えどかなりの広さがあり、室内は簡素で飾り気も無く。只々しんと静まり返っている。
その隅にて設えられた幅の広い寝台の上に、半身を起こし何やら分厚い雑誌をめくっている長身の男がいる。その名は浦原喜助。

実はこの浦原、同じ男であるが、マユリとは、長く付き合っている恋仲であるのだ。
そこへ奥からマユリがやって来た。寝台へと手を着き、横から浦原の顔と雑誌を代わる代わる覗き込むようにしている。

「何を見てるんだネ?」

不思議そうにマユリが問うと、浦原はマユリの肩をおもむろに引き寄せ、横へ来るように軽く意志表示した。マユリはそのままゆっくりと寝台に上がり、浦原の横へと座りこむ。

「んー、今週のJ○MPっスよ。マユリさんの登場シーンを見てたんス」

「ホゥ。所で、確か貴様は現在虚圏に居る筈だが?何故に、どうして此処にいるのかネ?エ?大体そのJ○MPだが一体どのようにして手に入れたのだネ?虚圏には売ってないだろう?」

「アハハハッ、質問攻めっスねェ。何故アタシがこの場に居るか…それは追い追い話していくとして。J○MPは現世にいるテッサイさんに買っといて貰ったんス。マユリさんが本誌に登場した回は、店頭のJ○MPを全て買い占めるよう、常日頃からアタシ頼んでるんスよ。伝令神機でも『マユリさん情報』として連絡も取り合ってますし。今日もテッサイさんが写メでJ○MPでのマユリさん画像を送って来てくれたんスよ。それで掲載を知りまして。急遽、一旦現世に戻って、後に尸魂界(こちら)に来たと言う訳なんス」

「買い占め…。情報の交換…だと?ハァ、浦原貴様いい加減に、この私を偏執狂的に追い回すのは止め給えヨ」

「ああ、ハハッ。酷い言われ様っスねェ。まぁ、それは置いといて。この際なんで、マユリさんに聞きたい事があるんスけど…いいっスかね?」

ずい、とマユリの顔を上から覗き込む浦原である。その表情は険しく、眼差しは真剣であった。

「何だネ、畏まって。ム。貴様、眉間に皺が寄ってるではないカ。ちょ、ッ…そんな顔で近付くんじゃあ無い!怖いだろうッ!!」

「マユリさんって、阿近クンと…まさかデキてるって事、無いっスよね?」

浦原からの意味不明な言葉を投げ掛けられ、暫くポカンと口を開けてしまったマユリ。が、やがて意図している事が理解出来ると、マユリは真っ赤になって憤慨した。

「ば、ッ…何言って、ッ!?私が阿近と!?浦原、貴様戯けた事を言うと本当に赦さ無いヨッ!!」

「…ホントに?違うんスか?」

マユリから望んだ答を貰った浦原ではあったが、それでもまだ不安なのか未だ怪訝そうにマユリの顔をジッと見詰めている。

「当たり前だヨッ!!大体どうして私が阿近とそうなるのだネ?エ?」

心外だと浦原に逆に問い掛けたげなマユリの表情。どうやらマユリはまだ阿近の気持ちに気付いていないようで、浦原も此処にきて漸く大きく安堵の息をついた。

「よ、良かったァ。否、あんまりにも本誌P358のマユリさんが阿近クンに優しいんで。アタシてっきり…」

「当然だろう。緊急隊首会という厳談の場なのだヨ。大体、貴様と違い阿近には怒る理由が見つからぬではないかネ」

「イヤァ、勘違いしたのには理由があるんスよ。P358のこのマユリさん、なんか凄くエロいんス。そこはかとなく漂う色香って言うんスかねェ、妙に煽情的で。アタシがあの場にいたら、もうッ…押し倒して羽交い締めにして、無理矢理××したくなっちゃいそうないやらしさっスよォッ。堪らないっス!」

「………。貴様と阿近の違いはそういった所だと、何故に気付かないのかネ」

呆れて物も言えぬ、とマユリは些かうんざり気味のようである。

「あと!こっちのP359の伏し目がち流し目マユリさんも!エ、エロ過ぎっス!!こんな顔して、一体誰を誘ってるんスかァ!?てか、この後誰かに何かされたりしませんでした?アタシ心配で、心配で…だから、虚圏は一時的に黒崎サン達にお任せして、ついつい尸魂界(こっち)ヘ飛んで来てしまったんスけど」

「フン。曲がりなりにも護廷隊の隊長格達だヨ。そんな事ある筈無いだろうッ!」

この男は何処まで嫉妬深く、心配性なのであろうか?全く、とんでもない男を恋人としたものだ、とマユリは我ながら困惑する。

「じゃあ、平子サンも?」

唐突に浦原から出たその名…平子とは五番隊隊長に復帰した平子真子の事である。平子は浦原と懇意にしている間柄であれど、それとはまた別であるとマユリに言い寄って来ている奇妙な男であるのだ。

「ウ…」

「ウ、って…ウ、って、なんスかァッ!?も、もしかして何か有ったんスか!?マユリさん、平子サンに何かされちゃったんスかァッ!?」

「大丈夫だ。私を誰だと思っているのだネ?自分の身くらい、自分で護れるヨ」

「ああッ、やっぱり!!思った通りっス!何かされ掛かったんスね!?き、危険っスよォ…アタシこのまま此処に居て、マユリさんに変な虫が付かないよう見とかないとッ、安心出来ないっス!!」

「必要無いヨ。寧ろ邪魔だ。こちらも現在、戦の準備もせねばならぬし、例の滅却師の根城も探らねばならぬ。それに、虚圏は今大変な状況なのだろう?死神代行とその仲間達が待ってるのでは無いかネ?早く戻ってやり給え」

スッと浦原に背を向けるマユリ。きしり、と寝台が軋んだ音を発てた。

「…アタシが向こうに行っちゃって…マユリさん、寂しく無いっスか?」

「無いヨ」

マユリは変わらず外方を向いたままだ。

「そんな事言って。マユリさん、その机の引き出しからチラッと見えてるの、先週のJ○MPじゃあ無いっスかァ。確かアタシが巻頭カラーに出てたヤツっスよねェ?もしかして…購入されました?」

「ぐ、ッ…」

痛い所を突かれたのか、マユリは真っ赤に赤面し、俯いてしまった。正に全身茹で蛸状態と言った様子である。

「嬉しいっスよ。アタシ、愛されてるんスよね?ね、マユリさん…」

「ち、違うッ!此は阿近が置いて行ったモノだヨッ!私が買った訳では、ッ…」

「またまたァ。好敵手の阿近クンがアタシが載ってるJ○MPをマユリさんの目の触れるとこに置いておく訳無いでしょう?さ、マユリさん。いい加減素直になってください」

「…−−ッ!?」

マユリの薄い身体に浦原の腕が後ろから回された。ふわり、と浦原の柔らかな金髪がマユリの頬を優しくくすぐる。
繊細なマユリの首筋に浦原の唇が寄せられる。キュ、と吸い付き、マユリの白い素肌に甘い吸い跡を残していく。

「あ…少し、だけだヨ…」

そう、少しだけ。今だけ、この束の間の逢瀬に酔いしれて。

時と場所を弁えぬ愚か者だと、笑いたくば笑えばいい。戦はもう直ぐそこへと迫って来ている。何があるか分からぬ今だからこそ、目の前のこの男が余計に愛おしく、欲しくなる。

そっと身を寄せ、唇を合わせる。とろり、と蕩けるように舌先を絡ませ、蜜のような粘った唾液を悦びに震え吸い上げると、やがて関を切ったように相手との行為に夢中になっていく。互いの頭を抱え込み、角度を変え、貪るように求め合う。

−ああ、愛、している−

そう。それだけが何時も心の芯にある。
目の前の愛しき者を護りたい。その為になら闘いにも躊躇わず身を投じるのだ。そして、その時は…近い。

月明かりの下、白く重なり合う恋人達。それは儚くもこの上無く、美しく輝いて見えるのだった。
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[終.2012.04.20]
J○MP鰤最終章でのマユリたま再登場に、思わず『萌え』てしまい即行で書き上げましたf^ー^;
実際、浦原は一護達現世組と同行してますけど。少しだけ抜け出してマユリの下へと現れた、という設定です。お気に召してくだされば、嬉しい^^;

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