■小説2

□Darlin'×2 −最愛の男−
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題:「Darlin'×2 −最愛の男−」
  [其の壱]
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現世。空座町にある古民家風の駄菓子屋−「浦原商店」。

その商店奥にある、居間にて。現在、浦原、テッサイ、ジン太、雨(ウルル)の四名が、円卓を囲み、顔を付き合わせている。見れば、円卓の中心になにやら置かれているのだ。それは「空座第一観光」発券の旅行券であった。全員の視線の先に位置するは、この二枚のチケットなのである。

本日の昼間。買物ついでの空座町商店街の福引きにて、このゴールデンウイーク二泊三日の温泉旅行を、幸運にも引き当てた浦原。
行き先は美肌に効く天然温泉と、山海の珍味をふんだんに扱った懐石料理で有名な宿である。突然降って湧いた出来事に、浦原及び同居人三名は飛び上がって歓喜する事となった。

しかし、その旅行を巡り、浦原商店内は険悪な雰囲気となってしまっていたのである。何しろその温泉旅行は、この眼前のチケットの枚数からも分かるように、「ペア」ご招待となっていたからだ。

「おい、ウルル。分かってんだろうなァ。温泉は俺と店長とで行く!お前、休み前に『ゴールデンウイークは図書館に通う』って言ってただろ?」

「あ…でも、私…やっぱり、キスケさんと…温泉に行きたいよ」

「なにぃッ!?今更そんなこと…ずりぃよ、ウルルぅ」

「お二人共、おやめなさいっ!」

今にも掴み掛かりそうなジン太と、それでも引かないウルル。もはや行き着く先は喧嘩となるは確実で。テッサイは慌てて、両名の間に割って入ったのであった。

「ハァ…困りましたねェ…」

眉間に皺を寄せ、くしゃりくしゃりと金髪を掻く浦原。その口元に笑みはあるが、瞳は困惑気味に目の前の二人へと注いでいた。自身が持ち帰ったもので、家庭内に可様ないざこざが起きてしまい、浦原は随分と心を痛めていたのである。
と、その時。不意に明るい表情となったテッサイが、膝を打ち、こう言い放った。

「私にいい考えがあります。折角のゴールデンウイークですので、子供達は私が『ネズミーランド』にでも連れて行く事に致しましょう。それならば、二人も納得出来るものと。遊園地には前々から行きたがっておりましたから。このペアチケットは…浦原店長がお使いくださいませ。なに、遠慮は無用の事。チケットを引き当てられたのは店長なのですから、当然の権利ではありませぬか。どうです?宜しければ、涅殿と…一緒に行かれてみては?最近余りお会いになって無いのではありませんか?」

「あ。マユリさん…と?」

テッサイの提案に浦原の胸は、ドクンと激しく動悸を打った。
マユリとは、尸魂界に在住する現十二番隊隊長と開発局局長を兼務する涅マユリの事である。浦原とマユリ−随分と前より、この二人が同性という垣根を越えた恋人であろう事は、テッサイを始め周知の事実なのであった。

そして、先程のテッサイの言葉−推察は見事に当たっていた。此の処、開発局は多忙を窮めており、それを理由にマユリは現世に来る所か、夜の自室での浦原との逢瀬すら、断って来ていたのだ。故に、浦原はここ暫く随分と寂しい状況に置かれていた。

「アタシ、連絡取ってみますッ!」

立ち上がった浦原は、伝令神機を持ち、障子を開けると、いそいそと部屋を出て行った。その後ろ姿を、テッサイを始め一同は微笑ましく見詰めていたのであった。
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同刻。尸魂界−技術開発局内第五研究棟。

局員達が忙しなく立ち働く研究室に、マユリは入って来た所であった。これからマユリが各局員らの研究の進み具合を一通り確認した後、適切な指示を下す。その後、自室のある第七研究棟に戻り、自身の研究へと戻るのがマユリの通常となっていた。

と、数名の研究の成果を見渡していた時である。死覇装の胸元に潜ませていたマユリの伝令神機が、何者かからの着信を告げていた。
見ると発信人は−浦原である。
マユリは深く溜息をつくと、研究室の端へと移動し、場所を取った。

「浦原か…何か用なのかネ?今私は仕事中なのだがネ」

「すいません。否、此の時間に連絡するの、どうかとも思ったんスけど。何分少しでも早い方が良いと思いまして。マユリさんの都合も有りますし」

「ム。何だネ?急を要する事なのかネ?」

もしや突然の敵の襲来か?それとも、現世或は尸魂界に、異変や兆候があったとでも?
浦原喜助−この男は、現世に身を投じているとは言え、尸魂界一明晰な頭脳を持つ死神であるのだ。その浦原からの突然の連絡に、マユリは酷く訝しみ、警戒の念を抱いたのであった。

「あ…イヤァ、マユリさんって五月の連休って時間空いてますぅ?正確には五月四日からの三日間なんスけど」

「ム?どういう…」

「えー…アタシと温泉に行きませんかァ?否、此処の所マユリさんずっと不眠不休で作業されてますでしょ?たまにはゆっくりされてみてはどうかなァ…なーんて」

浦原からの言葉。それはマユリの予期せぬものであった。突然の連絡に妙に警戒し、肩に力を込めていたマユリ。だがそれは、不意に脱力する事となった。そうして、その内容と浦原の安穏とした口ぶりに、今正にマユリの怒りは沸々と沸き、やがて頂点にまで達したのだった。

「ばッ、馬鹿者ォッ!浦原、貴様ッ、何を考えているッ!?空気を読み給えヨッ!」

唐突のマユリの怒声に、一瞬にしてその場にいた局員達は無言となり、固まってしまった。そして、それは通信相手の浦原も同じ状態であったのだ。

「マッ、マユリさ…」

未だ何か言いたげな浦原の声を残して、突如として通話は切れた。怒りに身を任せたマユリが、伝令神機の通信ボタンを押したのであった。

それからは悲惨であった。未だ怒りが収まりきらぬマユリは、作業が進んでおらぬ局員に対して罵声を浴びせた。まぁ、元はと言えば、成果を上げれ無かった局員が悪いのだが。それでも研究室は険悪な雰囲気となっていたのだ。

−浦原のヤツ…何を考えている?この状況で『温泉旅行』だと!?全く、馬鹿も休み休みに…−

未だ浦原に対し、はらわたが煮えくり返ったままのマユリ。が、その時。再び伝令神機が着信を告げたのだ。

−ハァ…またかネ…−

画面に表示された、通信相手も見ず、電話に出るマユリ。

「浦原、貴様ッ、いい加減にし給エッ!!」

だが、その勢いは始めだけであった。
電話の相手は誰であろうか。先程の、怒りに身を任せていた状態と打って変わり、次第に落ち着きを取り戻していくマユリに、局員達は漸くホッと胸を撫で下ろすのであった。
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[其の弐へ続く]
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