■小説3

□《永遠に片想い》〜side MAYURI〜
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《永遠に片想い》〜side MAYURI〜
[其の壱]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「う、んっ…涅…サン」

同衾の人物の寝言に目を覚まさせんとられた私は、今自分がやわらかくあたたかな寝床にいることを理解した。
障子をほんのりと朝の光が明るく照らす。十三畳程の部屋の真新しい布団の中で、私は見慣れた男の裸体に守るように大切に包まれていた。

ー……む、う?これは…ーーッ…⁉ー

男に腕枕されていたことを知り、慌ててがばっと身を起こす。この私が男と情を交わし、抱き合って朝まで熟睡するなど、ぞっとするような現実だ。
この男…浦原喜助。

浦原とこんなことになっているのは、別にほだされた訳じゃない。
どれだけ拒絶しどんな抵抗をしようとも、彼奴が私を求める事を止めぬのを十分知っているからだ。なら、そんな抵抗は無駄だと流されてしまう方が、精神的にも肉体的にも楽であるに違いなかった。
最早あきらめの境地だ。
寝言ですら自分の名を呼ぶこの男から、私が逃れる術は無い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「事情が変わったんス」

数日前。地下牢獄『蛆虫の巣』。
暫く顔を見せなかったいけ好かない看守殿は、副隊長という少女を連れ、ある日唐突に私の独房へ訪れた。既に浦原は十二番隊の隊長になっており、自身が立ち上げた技術開発局という新組織へと私を引き抜きに来たのだった。
此処からの解放を望む私に、拒絶する理由は無かった。

浦原は私がこの突拍子の無い提案を受け入れると、少女を先に戻し話を続けた。鍵をこじ開け牢に入り、私の隣に腰を下ろした。

「本当なら貴方を此方にずっと閉じ込めておくつもりだったんスけど、所属が変わって逢いにも来れないなら致し方ありません。それに開発局に貴方の力が必要なのも嘘ではありませんからね。なにしろ突然昇進が決まったもんで、涅サンには暫く寂しい思いをさせちゃいました。スイマセン」

数年前、浦原は私に逢うのが目的で、自ら進んでこの洞窟牢の看守役となった。私は出逢って直ぐに訳の分からぬ告白を受け、やがて男の慰み者となった。抵抗しても止まぬ男の蛮行は最近まで続く。
しかしここ暫くは、毎日の如く続いた浦原の訪問がぱったりと止み、疑問を抱くと共に久方振りの安寧を感じた数日間であった。此の儘この男が来ない事を、何度願ったことか。しかし願いも虚しく、浦原は再び私の前に現れた。

正直もううんざりであった。この男に振り回され好き勝手にされるのは、いい加減辟易する。まさか此処から解放されてもこの関係は続くのか⁉との一抹の不安が胸を過ぎる。

「浦原。お前の研究には手を貸そう。私の技術と才能を以ってすれば、如何なる施設も早々に軌道に乗せることは容易い。だから、私のことは…もう放っておいてくれないかネ」

「それは無理っス」

「貴様の望み通りにしただろうッ⁉この上何を私に求めるんだ⁉」

顔色一つ変えず飄々と答える浦原に、私は堪らず激昂した。しかし、ーーー

「ボクと一緒に生きてください、ッ‼」

「…ーーーーッ⁉」

カッとなった勢いで立ち上がった身体を背後から抱きすくめられ、私は見る間に硬直した。

「マユリさん。…離さないっスよ。ボクは一生…貴方の側から離れない」

ヒヤリと背筋が冷たくなるほど、私は空恐ろしくなった。開発局副局長、いや次期局長という肩書に釣られ、自分はとんでもないことを了承してしまったのではないか?と。

浦原の指が私の顎門をゆっくりと捉え、唇を重ねる。滑った舌先が私の閉じた口唇を無理矢理抉じ開け、ねっとりと舌を絡め取ってくる。
私は棒立ちのまま浦原に激しく唇を貪られ、早くも酷い後悔の念を抱くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[其の弐へ続く]
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