■小説3

□LOVE LOVE SHOW
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題:「LOVE LOVE SHOW」
  [其の壱]
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「涅サン。ア、ア、アタシと、…結婚してくださいッ!!」

浦原喜助が積年の想いに遂に踏み切り、涅マユリにそう告げたのは、今から僅か二週間ほど前のこと。重要な話が有るとして、深夜唐突に、十二番隊のマユリの自室へ訪れたのだ。

「…………」

男の突然の訪問に、既に寝台へと身を入れていたマユリは、当然ながら露骨に厭な顔をした。

そうして浦原は、上記のような突拍子も無いことを言い出したのである。
二人には恋人としての付き合いは無かったものの、百年以上も前からの知った仲であった。

或る時は看守と囚人、時には同じ職場の上司と部下として、その関係が変わりはしたものの、互いに気になる存在であった。否、実はこの頃より浦原は、同性でありながらもマユリに激しい恋情を抱き、密かに胸を焦がし続けて来たのだ。

反乱を企てた藍染や破面、ユーハバッハ率いる滅却師達との大きな戦は終焉となり、世界はいたく平和となった。
故に、告白するのは今しか無いと、浦原は撃沈覚悟でマユリに結婚を申し込んだのである。

"交際"では無く、いきなり"結婚"としたのは、マユリの本音を確かめたかったのと、長きに渡る自身の気持ちに踏ん切りを着けたかったからだ。それに情に絆されて付き合って貰っては、いずれ自分では別れることも出来ず、未練たらたらで女々しく泣き言を言うやも知れぬ。ならばいっそ駄目元でとの覚悟を致し、求婚することを決意した。

「結婚、か。フム…構わぬヨ。で、それは一体何時にすれば良いのだネ、浦原?」

「−−−ッ!!!??」

が予想に反し、マユリの返事は、いたく嬉しいものとなった。
浦原からの求婚に、マユリはしばしの間無言で、何やら思案している風ではあったが。顔を上げたマユリは、その奇妙奇天烈な提案に、躊躇う事なく快諾してくれたのである。

−う、う、う…嘘ォッ!?涅サンが、アタシとォッ…!!!??−−

普段からマユリの浦原に対する態度は、あからさまに嫌悪感が有り、誰が見ても好意を抱いているとは思えぬものであった。
だが、言ってみるものである。此の世の中には、万に一つの奇跡は有るのだ。玉砕覚悟の浦原の求婚は、それこそ奇跡的に実を結んだのだから。

色良い返事を貰えた余りの喜びに、興奮し過ぎてしまったのか、浦原は一瞬気が遠くなりかけた。が、何とか意識を取り戻してみれば、そこには紛れも無く現実のマユリが存在した。
夢では無かったと理解した瞬間、浦原は遂に我を忘れ、眼前のマユリに縋るように飛び付いたのだった。

「ほ、ほんとッスか!?良いんスかッ!?涅サン、アタシと結婚しても!?」

「くどいヨ、浦原。さっきから、良いと言っているだろう。何度も聞いて来るんじゃあ無い。私は、…しつこい男は嫌いなのだヨ」

抱きしめた腕の中、マユリはフンと其方を向く。その仕種が恥ずかしがっている様にも見え、浦原は益々マユリを愛おしく感じるのだ。

「ああ…嬉しいっス!先の戦は酷いものでしたが、アタシ本当に生きてて良かった!!あ、否。正確に言うと死神だから、もう死んではいるんスけどねェ、でも…。アアッ、そんな事はもうどうでもいいッ!!涅サン、アタシ達 "シアワセ"になりましょ!!否、なれるっス!アタシがアナタを必ず "幸福"にしますからッ!!」

マユリを抱きしめる腕にギュッと力を込め、浦原は至上の喜びに酔いしれた。片想いであるとの長年に於ける偏った考えは、よもや思い込みであったのか。
何故なら、浦原の求婚を受け入れたこと−それこそが何よりも、マユリの真実であるに違い無いのだから。

浦原はその儘マユリと顔を重ね、唇を合わせた。
ヒンヤリと冷たいマユリの口唇だが、己の唇が塞いでいるかと思うと、それだけで体中が沸々と熱を持って来てしまうのだから、全くもって不思議である。
マユリを幸福にすると言っておきながらも、自分の方が真っ先に幸福になってしまっている。この単純明解な自分の心と体には呆れてしまうと、浦原は自嘲気味に微笑うのだった。

こうして。思い掛けずに願いが叶い、浦原喜助は涅マユリと結婚するに到ったのである。
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尚、同居するにあたっての準備、及び心掛けなど、浦原はマユリの意向に出来るだけ副うことにした。

一つは、結婚しても互いに別姓を名乗ること。
これは双方共に、仕事に於いての都合である。『涅』の名には、これ迄培った長きにわたる隊長としての威厳が有り、変えることは許されない。そして浦原にしてみれば、『浦原商店』店長たる人物が、その名で無いのは格好が付かぬという訳だ。

同居場所は、今現在のマユリの部屋を個人の研究室のみに致し、隣に二人の住家を造った。浦原は此処から現世の『浦原商店』へと、日々通うことになる。
これ迄の事を思うと少々面倒臭い気もするが、これも護廷隊隊長であるマユリの立場を維持する為であるのだから、仕方ない。それに遠方の職場へと早朝から通うのは、現世のサラリーマンなら皆やっている。
何よりそれで愛するマユリと暮らすことが出来るのだから、浦原にとってみれば諸手を上げての万々歳であった。

式はいずれということに致し、同居までの準備や周囲への報告も終えた。
二週間はあっという間に過ぎ、二人は結婚生活を始めることとなったのだ。
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「た、ッ…ただ今帰りましたァ!!」

開発局内に有る、第七研究棟玄関前。
大きく深呼吸を致し、やや緊張気味の体で、浦原喜助は声を上げ、現世からの帰宅を告げた。

時は夕刻。この時間帯であるなら、本来多忙なマユリは未だ研究に勤しんでいる頃だろう。が、常とは違い、今日は間違い無く自宅に居る筈である。何しろ今日から、待ちに待った『結婚生活』が始まるのだ。伝令神機にて既に連絡を致し、マユリには帰宅時間を告げてある。

故に、浦原はニヤケた顔を両手で叩き、わざとらしく神妙な面持を作った上で、扉を開けたのだった。

「?…帰りましたよォ。あの、…涅サン…?」

暫く待ってみれども返事も無く、部屋はシンと静まり返っている。期待したマユリからの「お帰り」の言葉も、熱い抱擁や甘い接吻も訪れず、浦原は気落ちし、ガックリと項垂れることとなった。

−やっぱり…開発局の作業、長引いちゃったんスかね?−

とぼとぼと重い足取りで、廊下を進む浦原。
と、薄暗かった玄関と違って、新しく増築した台所付近より、煌々とした明かりが漏れていることに気付いたのだ。

「?」

隙間からこっそり覗いてみると、そこには後ろ姿のマユリが居た。死覇装に白い割烹着を着用し、何やら忙し無く立ち働いている様子。その姿が百年前の、自分と過ごしていた頃のかつてのマユリと重ね合わさり、浦原は言いようの無い胸のときめきを覚えるのだった。

「おかえり、浦原。何時帰っていたのかネ?否、気が付かなくて済まなかった。ン?どうしたネ?そんな所で突っ立っていないで、早く中へ入り給えヨ」

「あ…ただいま…っス」

どう声を掛けようかと迷っていた矢先、振り向いたマユリと目が合わさった。此の時、浦原はらしくも無く動揺してしまった。マユリに見惚れていたのをマユリ本人に見られてしまい、気恥ずかしかったのだ。
それを誤魔化す為に、部屋へと入った浦原は、早々にマユリの元へと近付いた。

「何か作ってたんスか?」

「ウム。今日は私達二人の大切な日だろう。だから、それに見合った"特別な料理"にしようと思ってネ」

「そういや涅サン、確かお料理得意でしたもんね!!アタシが十二番隊に居た頃も、涅サンお手製の賄いや炊き出し、隊の皆サンから『美味しい!!』って随分と評判で。イヤァ、これは役得っスねェ。何作ってくれるんスかァ。アタシ凄く楽し、み…!!?」

そう。忘れていたが、自分達は『新婚』であった。日頃多忙を極めるマユリだが、現世より帰宅した浦原の為に今、結婚して初めての"手製の料理"を披露しようしてくれているのだ。

それは言いようの無い感動であった。愛されているという喜びに浸り、胸が一杯となった浦原。その心情を隠すこともせず、満面の笑みを浮かべた彼は、ついつい軽い気持ちで、ヒョイッと調理場を覗き込んでしまったのだ。
するとその後、男の身に異変が生じた。浦原は次第に青ざめていき、しばしの間、絶句状態に陥ってしまったのである。

「…く、涅サン。…これは一体……」

漸く喉から絞り出した声は震えていて、言葉になっておらず聞き取り難いものであった。それ程に浦原は、眼前の光景に驚愕したのであろう。

あの浦原喜助すら動揺するもの。マユリの作っていたものとは、果たして如何様なものなのか。
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「其の弐へ続く」
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