■小説1

□伝令神機に恋をして
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題:「伝令神機に恋をして」
  [其の弐]
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100年前。
突然姿を消した浦原に、マユリは茫然自失となった。虚化実験という禁忌を犯し現世に追放されたという浦原は、もはやマユリでもその行き先を突き止める事は出来なかったのである。かてて加えて自隊の隊長である人物が犯した犯罪について、他隊の心ない人物らが有ること無いことを噂し、十二番隊そして技術開発局は白い目で見られる事となった。

マユリは十二番隊の三席であり技局の副局長であった為、新隊長新局長となったがその重責は一言では言えない物であった。マユリは血の滲むような想いをして今の十二番隊と技術開発局を再建したのである。

自分を置いて消えた浦原を恨み、憎む事もあった。だが思い直し、あの浦原がそのような犯罪を犯すなど考えられず。おそらく嵌められたのだろう恋人を「馬鹿なヤツだヨ」と虚しく一人ごちる夜もあったのだ。

そんな二人が再会したのは藍染との闘いに於いて転界結柱を起動した時である。それまで作戦会議と称して技局のモニター画面で浦原の顔を見て淡々と事務的な言葉を交わす事もあったが、不思議とマユリに実感は湧かなかった。
だがあの日、マユリは虚圏に向かう為、浦原の黒腔を通らなければならず二人は現世で漸く再会したのである。

「マユリ、さんッ…」

その時、浦原は躊躇いなくマユリに駆け寄って来た。そして誰憚る事無くマユリを抱きしめたのである。

「逢いたかったっスよ、マユリさん…」

「………」

浦原の目には涙も見えたがマユリの方は無言であった。

何故目の前のこの男は泣いているのか?
自分を置いて現世へ逃亡したのは、この男の方だったではないか?
言いたい事は山のようにあった。だが、マユリは何かを伝える術も無く、そのまま浦原と別れ虚圏に向かったのだった。

あれから一ヶ月が過ぎ、マユリは浦原との再会を夢であったかの如く忘れ去ろうとしていた。
そんな折届けられた不審な小包。送られて来た伝令神機から聞こえて来た間の抜けた男の声は、緊張感のかけらも無い物であった。

浦原は未だマユリと恋人関係であると思っている。100年も連絡を寄越さず、否、例え連絡の手段が無かったとしても、やけに虫のいい話ではないかとマユリには思えたのである。

「残念だがネ、浦原。私にそんな時間はないのだヨ。只でさえ私は今空いた時間を利用して虚圏まで研究に出向いている。こんな時に貴様と恋愛ごっこなど致してる暇など無いのだヨ」

「ハァ…冷たいっスねぇ。ではその伝令神機の別機能についてお話しましょうか」

「別機能だと?」

「そうっス。実はそれですが、通信の範囲が虚圏まで入ってるんスよォ。つまりマユリさんが研究目的で虚圏まで行かれてても、出先から尸魂界や現世に連絡取る事が可能なんス。その上、ホラ例の対虚用探索装置が付いてるんスよ。これを使えば、マユリさんの望みの虚を見つける事なんてあっという間っスよォ。無駄に時間を食う事無く作業も捗りますよォ」

「………」

マユリは驚いていた。元々浦原の才能にはマユリでさえ一目置いてはいた。が、藍染との闘いから僅か一ヶ月で、虚圏からの通信手段までも可能とするとは…その浦原の手際の良さには目を見張る物があった。

「どうです?フフ。マユリさんこの伝令神機試しに使ってみちゃいかがっスかね?」

「………」

浦原に先を越されて悔しい気持ちはあったが、これを使えば確かに時間の無駄は無くす事が出来るだろう。その分効率的に持ち帰った虚の解剖、研究が出来ると言うものではないか。

マユリは暫く考えていたが

「少しの間なら試しに使ってみてもいいがネ。使えない代物と有れば直ぐさま廃棄だヨ」

と答えたのだった。

「了解っス。では、明日また感想聞きに電話入れるっスよ。いつ頃がいいスかねぇ?」

「昼間は困る。忙しいからネ。夜の方がいいネ」

「分かりました。では明日また連絡しますね、マユリさん」

電話はそこで切れたのであった。

なんだか浦原の思う壷のような気もするが、研究の為なのだから致し方ない。それに最後の浦原の声が妙に嬉しそうであったのも気になった。が、それからのマユリは伝令神機の説明書と格闘し始め、それ処では無くなったのである。
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[其の参へ続く]
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