■小説1

□星合の空、願わくは
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題:「星合の空、願わくは」
  (注:性的表現有り)
  「其の弐」
−−−−−−−−−−−
「おい浦原、いつまでそうしている気だネ?」

マユリに言われて喜助ははっ、と我に帰った。抱きしめたマユリの身体から懐かしい甘い匂いがして浦原はそれに暫く酔っていたのである。

「すみません。あ、今庭先で七夕会やってるんスよ。マユリさんも良かったら一緒にどうです?」

「断るヨ。黒崎一護やその仲間が来ているのだろう?浦原貴様よもやこのワタシにアヤツらに素顔を晒せと言うのかネ?」

そう今日のマユリはその言葉通り化粧をしていない。化粧どころかその服装も普段と違っていて、マユリを知る者でもおそらくはなかなか気づかないだろうと思われる。素顔で長い髪を下ろし、着ているものは白いシャツと黒のスキニーパンツという現世の服であるのだ。元々マユリは整った容姿をしていて、これが意外と似合っているのである。
マユリに冷たく遇われ、浦原は少々気落ち気味だ。せっかくマユリを恋人として皆に紹介できる機会をまた失ってしまったのである。

「あ!そうだ、いい物があるっスよ。マユリさんこっち来て」

浦原はからからと家の横手にある戸口を開けて、マユリを中に招き入れた。マユリが中に入ると浦原は何やらごそごそと箪笥の中から取り出して、白い包みを二つマユリの前へ持って来た。

「開けて見てください」

紐を解いて中を見ると、男物の浴衣である。もう一つはそれと色違いの物で同じ柄であった。揃いのものであるらしい。

「浦原、お前ワタシが今日此処へ来る事、まさか解っていたのではないだろうネ?」

マユリが訝しそうに下から浦原を見詰めると、喜助は慌てて手を振った。

「とんでもない!これを作ったのはもう随分前っスよォ。いつかマユリさんと着れたら、って。ずっと大事に置いてたんスよ。さ、マユリさん。着せてあげますよ」

浴衣くらい自分で着れる…そう口から出かかってマユリは止めた。浦原とは会うとすぐ口喧嘩になる。長い間逢えなかったのだ、今日位は素直でいよう。マユリはふとそう思い、浦原の前に立つと着ていた服を脱いでいく。

下着だけの姿になったマユリに浦原はハァ、と感嘆の溜め息を漏らした。
マユリの身体は相変わらず無駄な脂肪がない。いや寧ろ痩せ過ぎではないかと肋骨の浮き出た部分を見るとそう思うが、青白いマユリの身体にはその病的な体が合っていて妙に美しくさえある。
体毛の薄いマユリの体は貧弱で儚い。浦原は浴衣をマユリの身体に羽織らせ袖を引き通し、襟を合わせようとマユリの前に膝まづいた。と、目の前のマユリの白い胸板にある淡色の突起を見つけると、その色香故か浦原の中心が熱くなり熱を持って疼き出そうとする。
喜助は慌ててそこから目を逸らすと手早くマユリを着替えさせた。

やがて浦原も浴衣に着替え終わった。
マユリのものは白地に何やら斑紋が入った物で、浦原は濃紺色に同柄であるようだ。

「凄く…似合ってますよ」

浦原はうっとりとマユリを見詰めて言うと、そっと手を引いて先程入って来た戸口へ向かう。部屋の明かりを消して、畳の隅に腰掛けると、二人庭先へ足を出した。と、浦原が外へ降りて下駄を持ち、マユリの足先へ履かせていく。
浦原は細くて折れそうなマユリの足首を持つと、マユリの白い素足に顔を近付け頬を擦り寄せた。ふいに、れろ、と浦原の舌がマユリの足先を舐め始めた。浦原はちろちろと爪先から指の間に舌を這わすとおもむろにマユリの指をちゅう、と吸い上げる。

「…−−−ッ!!」

浦原の突然の行動にマユリは驚くと慌てて足をさっ、と引き上げた。

「馬鹿ッ…見られたらどうするんだネ…」

「別にアタシは構いませんけど」

浦原はそう言うと名残惜しそうにマユリの足を暫く指で撫でていたが諦めたのであろうか、すんなり下駄を履かせると、浦原はマユリの横にすとん、と腰掛けた。

「ハァ…全く、貴様は。困ったヤツだヨ」

「そうっスかぁ?恋人ってそういう事も大事でしょ?ほら、織り姫も今頃彦星と愛を確かめ合ってい…あ、痛いッ!」

浦原は頭を両手で抱えた。マユリの怒りの鉄槌が浦原の頭に見事に炸裂したのである。

「あ痛たたたッ…酷いっスよォ、マユリさん」

「下世話な事を言うんじゃないヨ!せっかくの七夕が…台なしじゃあないかネ」

マユリが言うと、浦原はそれもそうっスねぇと空を仰ぎ見た。

−マユリさん案外とロマンチストなんスよねぇ…今日だってちゃんと逢いに来てくれたし…−

そうしてマユリも浦原の隣で同じ夜空を見上げる。

きらきらと輝き流れる天の川。一年に一度の逢瀬を楽しむ恋人達は、もしや今の自分のように喜びとときめきに胸を踊らせているのだろうか…浦原は隣で星を見上げるマユリの横顔を愛おしげに眺め入る。

そっと浦原の指がマユリの指に触れた。やがて浦原がマユリの手に指を這わせると、マユリの方もきゅっ、と指を絡ませて来た。

「マユリさん…」

「うん?何だネ…」

「アタシ、幸せっスよ。十分過ぎる位に…」

そうあの長い間逢えなかった時を思うと、今でも胸が苦おしく痛くなる。でもだからこそ今こうして逢える時がこんなにも愛おしいのだろうと浦原は思うのだ。

浦原は絡み合ったマユリの手を取ると、そっと手の甲に口づけた。
−−−−−−−−−−−
[其の参へ続く]
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