■小説3
□サンタクロースに気をつけろ!!
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「サンタクロースに気をつけろ‼」
《其の弐》
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「………リ様。マユ…リ様。マユリ様ッ‼」
頭上からのネムの声により、マユリは意識を取り戻した。
「…ネムか。私は、…気を失っていたのかネ…」
部屋の隅で横にならされていたマユリは、副官である娘のネムに支えられ、ゆっくり半身を起こした。側近くには浦原が心配そうにマユリを見詰めており、周囲には余計な見物客も居る。平子ら、護廷隊の隊長ら数人だ。
あのマユリが倒れるなど信じ難く、何が有ったのかと周囲を取り囲んでいる。浦原とマユリ、二人の只ならぬ様相に、興味津々といった所か。
「スッ、スイマセン涅サンッ‼なんか驚かせてしまったようで」
ー…浦原…ー
自分が原因で、思いがけずマユリが倒れてしまい、浦原もらしくなくオロオロと動揺している様だ。情け無くも見える好敵手を、マユリは今更責める気も無くなった。そもそもこの男のこれ迄の好意的な言動の意味に、気付かなかった自分も悪かったのだ。
「別に構わんヨ。ただそのプレゼントは、持って帰ってくれ給え。身に付けることが出来ない物を、受け取る訳にはいかぬだろう」
マユリにしては控え目に、やんわりと断りを入れる。浦原と恋愛がらみで揉めているだなどと、周囲に知られたく無かったのだ。
しかし浦原は、そんなマユリの心情に、残念ながら気が付かなかったらしい。
「涅サン、聞いてください。アタシは決していい加減な気持ちで、これを渡したんじゃありません。あ、イヤ、正確には渡してなくて、落っことしただけなんスが。と、とにかくッ、アタシはコレをアナタに着て欲しい‼アタシの為に、身に付けて欲しいんスッ‼アタシの愛をお疑いなら、心配要りません‼アタシのこの想いは、間違いなく本物ですから‼伊達に百年以上、地味に片想いしてた訳じゃありません。どうか涅サンには、…アナタにだけは、それを分かって欲しいんスッ‼あ、それと。お付き合いするならちゃんと手順を踏まないと、ですね。あの、ッ…突然でなんですが、此処でッ…」
マユリが倒れてから、予想以上に浦原は一杯一杯である様だ。二人きりでも無いのに、何を血迷ったかこうして露骨に愛の告白を致すとは、一途過ぎて周りが見えていない証拠である。
そうして浦原は、背後にてマユリを支えるネムの前へ、ズイッズイッとにじり寄ったのだった。
「ネ、ネ、ネ、ネムさんッ‼く、涅サンを、…お父さんをアタシにくださいッ‼お願いします、ッ‼」
大勢のギャラリーが見守る中、あの浦原喜助が、いきなりの土下座である。奇妙な事の成り行きに、周囲は目が点になる程に驚き、中には面白い事が始まったとニヤつく輩も居るのが見えた。
兎にも角にも、マユリにとってみれば、最早冷静ではおれぬ展開となってしまったのだ。
「う、浦原ぁッ‼貴様、何を、ッ⁉これ以上妙な事を言うと、承知しないヨッ⁉」
「エ?でも、やっぱり筋を通さないと。二人のことを、娘であるネムさんにも認めて貰って…」
「う、う、う、煩いッ‼クソッ‼帰るヨ、ネムッ‼さっさと支度しろ‼」
やはり変態だ‼この男とは話が噛み合わぬ。憤慨したマユリは穿界門を開き、あっと言う間に中へと入り、姿を消した。
「涅サンッ‼」
「浦原様…」
追い縋ろうとする浦原の前に、真顔のネムが立ち塞がる。
「私の使命は、マユリ様をお護りすること。無理強いなさるのなら、私がアナタを強制排除致します」
「……穏やかじゃ無いっスねェ」
ネムの眼光は鋭く、深い闇を湛えていた。つまり、今の言葉は本気だと、本気で命を賭しても戦うつもりなのだと、浦原に告げていたのである。
ネムと浦原の一歩も引かぬ、無言の対峙が続く。
「ネムさんの気持ちは、分かりました」
長い沈黙の後、浦原が口を開く。その口振りから、ネムが漸く安堵しかけた時である。
「ですが、…アタシは決して諦めない。追い掛けます、誰がどう邪魔をしようと。そう、誰にも負けない程に、アタシは涅サンを愛してるから」
「……ーーーーッ⁉」
それはあっと言う間の出来事であった。
一瞬の隙をつき、浦原が視界から消失した。マユリの後を追い、穿界門に入ってしまったのだ。
ネムは顔面蒼白となった。
「マユリ、様ッ‼」
こうして、直ぐにネムも二人を追う事になった。
「大丈夫でしょうか?」
「あの二人の事やから、いらん心配や。マア、なるようになるやろ」
全てを見届けた後、平子に宥められたテッサイは、この件に関してはこれ以上首を突っ込まないと決めた。犬も喰わない何とやら。恋愛ごとに口を挟むような余計な節介は、しないが吉と思ったのだ。
しかし予想通り、この日のクリスマスパーティは、三人の話題で持ち切りであった。
いずれこの場の状況を知ったマユリが憤慨するのは間違い無く。テッサイは、思わず背筋が寒くなるのであった。
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[其の参へ続く]