短編

□隠れた心情
1ページ/1ページ



滑稽、実に滑稽だ。



日向三十郎は、救いようのない阿呆だ。



呆れて物も言えなくなるほどに。



あの人も、なんであんなのに任務を任せているのだろうか。


身内?弟?

そういうコネがなければあの阿呆はこの学校に居なかったのではなかろうか。



図書室の本を整頓しながら、あの間抜け面を思い浮かべる。




なんであんな奴のところに黄葉くんはいるのだろう。



ルームメイトだから、或いは同じクラスだから。


多分、そんな理由だろう。



(せっかく、誘ってあげたのにな。)



まさか断ってくるとはな。



まったく、予想外な行動をとる子だよな。



それに比べて日向は、僕の思い通りの行動をとる。



面白みがない、全く。





黄葉くんの爪の垢を煎じて飲ませたいよ。




「こんなもんかな」


委員の仕事が一通り片付いたため、部屋に戻る準備にかかる。




―ギィ…



(ん?)



開いた扉の方を見ると、先程まで自分が散々貶していた緑髪の男子生徒が室内を覗いていた。



「今日はもう閉館時間ですよ。」


少し嫌みっぽく言ってみると、


「そうかよ。邪魔したな」


男子生徒は不機嫌そうに言って、体の向きを変えた。





「…日向」

何故か無意識に、名前を呼んでしまっていた。



「なんだよ」


此方を向かずに応える日向。

あからさまに嫌そうな声が僕の鼓膜を揺らす。


「別に、なんでもない」
「なら呼ぶな。」


そい言って図書館から出ようとした日向の腕を後ろからグイッと引っ張る。


「おわっ」


間抜けな声と共に此方へアホ面を覗かせる。


その顔が僕の正面に向いた瞬間、何を血迷ったか、奴の唇を奪っていた。



「な、何すんだっ!気持ち悪いっ」



ゴシゴシと制服の袖で唇を拭う日向の顔は、真っ赤になっていた。



好きでもない奴との、ロマンも何もない行為だったが、僕の心は何故か満足していた。





何か言ってやろうと思ったが、そこにはもう、日向の姿は無かった。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ