短編

□もう、
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 日向くんは弱い。

この言葉に、彼を馬鹿にしている意はこもっていない。


あくまで、俺自身の仮定である。


強がりで負けず嫌いな性格だから、自分の弱さを誰にも見せていないのだろう。




一昨日俺は見てしまった、日向三十郎の内側を。


 蝕が終わって校舎へ帰って行く生徒の中に、日向くんの姿がなく、心配になった俺は彼を探しに行った。


彼を見つけた場所は、人気のない物陰。

泣きながら咳き込んでいて、随分辛そうだった。

それを前にした俺は、何も言えない、何も出来ない。

そんな自分に腹が立った。



だから今言うよ、一昨日言えなかったこと。


「ねぇ、日向くん」

「ん?」


目の前にいるのは、いつもの日向くんだった。



「もう、いいよ」

「何が?」


俺が入り込んではいけない領域かもしれない。でも、今はそんなことどうだっていい。

それより、言わなければならないんだ。


「もう、強がらなくていいよ。君にはみんなが、俺がいるじゃないか」

「何のことだ…」

「ため込むのはよくないよ」

「…………」


言葉に詰まる彼に、俺は一番言いたかったことを口にする。


「君を、守らせてください。ずっとずっと、」

柔らかい微笑みを浮かべながら。

すると、目尻から零れ落ちる彼の思い。

そのひと粒ひと粒が今まで彼ひとりで抱えてきたもの。


笑顔頷く彼を、俺は強く強く抱きしめた。







―――――
(日向が、初めて六道の前で笑いました。)


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