OTHER

□無邪気には勝てません
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 小腹が空いた火神は台所へと向かおうとしていた。しかし、不意に響いたインターホンの音でその行為は後回しとなった。火神が玄関のドアを開け始めるのと同時に、

「火神っちーーー!」

近所迷惑甚だしい、男の声が響いた。
 またうるさいのが来た、と火神は小さく溜息を吐く。顔を見なくともわかる程に何度も聞いてきた声は人懐っこい大型犬のようにも見えるキセキの世代の一人、黄瀬涼太のものである。

「お前、何でまた来てんだよ?」

 火神の問いに黄瀬は「火神っちに会いに来たに決まってるじゃないスか」と爽やかに笑ってみせる。

「で、こんな時間に何か用か?」

「火神っちの声聞きに来たっス。オレ、1日1回火神っちの声聞かないと死ぬっス!」

「まあ死なれても困るけどよ…。でも電話とかじゃだめなのか?お前これだけのためにわざわざ神奈川から毎日…」

 言いながら無駄だと思い呆れてものも言えないというような顔をした火神は落としていた視線をふと黄瀬の顔へ向ける。流石、モデルというだけある。整った顔に細い身体、程良い肌の白さや指のしなやかさが同じバスケットプレイヤーであるということを疑わせる。

「どうしたんスか?」

「いや、何でもない」

「それより、明日オフっスよね?」

「…何で知ってんだよ…」

 そうだ、明日は珍しく部活がない。
さりとてやることもないので、近所の公園のゴールでも使おうかと考えていたところだ。それを他校の選手である黄瀬が何故知っているのか。

「黒子っちにメールで聞いたっス。
ねえ、明日一緒に出かけねっスか?」

「は?」

「ね、行こうよ火神っち!」

 はじけるような笑顔が火神に向けられる。
突然の提案に呆けるしかない火神だったが、黄瀬の屈託のない笑顔を見ると何故か断れなくなっていた。
 半ば無理やりの約束、結局最後はバスケをすることになるだろうと思った火神であった。



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