tox2

□生き残った人
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社まで来ると、ミラが佇んでいた。
オルンも一緒にいるのを見てびっくりした顔をしている。

「あなた、どうして……」

「運命に従ったまでだよ」

突然レイアのGHSが鳴る。
会社からの連絡が来たそうだ。
GHSを見てミラの顔が途端に険しくなる。
黒匣、そう言って精霊術を放った。
ユリウスが庇ってくれたが、ミラは剣を抜いて今にも飛びかかってきそうだった。
アルヴィンが進み出て、ミュゼの状態について話す。

自分のせいでああなったと言うミラに首を振り、全ては時歪の因子のせいだと告げる。
ミュゼの身体に取り憑いたあれを壊せば、元の姉に戻るかもしれない。
ルドガーなら時歪の因子をあぶり出して破壊出来ると言い包める。
その間、ジュードはずっと痛みに耐える顔を見せていた。
昔の姉さんに戻るならとミラも協力を申し出る。

「待って。ミラさんはここで待ってた方が……」

「嫌よ。姉さんが心配だもの」

ミラは退いてくれそうになかった。
ミュゼは音と匂いで周りを視てる。
そこを突けば動きを抑えられるとミラは言う。
火をかけるのか、というユリウスの問いに頷き、ミラは社の中へと入っていく。
これでいいのか、とユリウスはルドガーに聞いた。
アルヴィンはオルンを気にしながらも愛想笑いを浮かべる。
仕事にはこういう事もあるだろ、と。

「……君達は、君達の信じる道を行くといい」

オルンは肯定するように頷いた。
そして、ミラの後をのんびりついていく。
再び皆の顔は微妙になり、オルンの背を見つめた。



「落石に気をつけて」

先を歩くミラの隣にオルンが並ぶ。
ふらりとニ・アケリアにやってきたオルンを最初は邪険にしていたものの、野良猫と楽しそうに戯れているのを見てミラが傍に近寄ったのが付き合いの始まりだった。
村の人は決して食べてくれない食事を美味しそうに平らげ、更に偏見なく気さくに話してくれる。
ミラにとって、オルンは友というべき存在だった。

「ミラ、大丈夫?」

「昔の優しかった姉さんに戻るなら、私は……」

「……そう」

カラリと何かが落ちる音がして振り向く。
アルヴィンの足元に髪飾りが落ちていた。
アルヴィンはそれを大事そうに拾い上げる。

「それは?」

オルンの素朴な疑問に皆が驚いた顔をする。
アルヴィンがお守りだよ、と言って懐に仕舞った。

「あの、オルンさんのお母さんって今生きてるんですか?」

「十五年前に誰かに殺されたって聞いたよ。
結局犯人は見つからなかったらしいけど」

リベルのあの性格は母似だそうだ。
となると、母がいなかったからこういった性格になった可能性が高い。

「あ、そだそだ。ミラって四大精霊召喚出来る?」

レイアの問いにミラは首を振った。
今の私はただの人間よ、と。

「アルクノアを殲滅して使命を果たした後、四大精霊は召喚出来なくなったの」

「アルクノアを、殲滅って……」

ジュードがミラを見て、次いでオルンを見る。
もう十年以上も前の話よ、とミラは背を向けた。
セルリにはどうして皆がそんな顔をするのか分からなかった。
愕然とした表情、とでも言えばいいのか、皆言葉を失っている。

ゴゴゴッ、と不穏な音が頭上から聞こえる。
大きな岩がこちらに転がってこようとしていた。
咄嗟にオルンがミラと近くにいたセルリを庇う。

「いたた……。
あれ、ジュード達は!?」

セルリが辺りを見回す。
こちら側にはルドガー、エル、アルヴィン、レイア、ユリウス。
そしてミラとオルンがいる。
岩によって分断されたようで、無事だと声が返ってきた。
ここを通るのは不可能そうだから、別の道を探して山頂を目指すそうだ。

「これでよかったかも」

「ジュードを巻き込みたくないってか」

「うん……」

八人に加えてルルとルーメンで山頂に辿り着く。
ミュゼが天に向かって呟いていた。
精霊界に帰る事をお許し下さい、と毎晩誰かに語りかけているそうだ。
ミラによれば、いつもああらしい。


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