tox2

□故郷と約束と
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ニ・アケリアに到着すると、口々に村人はミラ様が帰ってこられたと言った。
ジュード達の話では、この世界のミラは一年前から精霊界にいるらしい。
ルドガーとエル、ジュードとセルリでミラの家だった民家に入ると、そこは空き家になっていた。

「私の家、じゃないのね……」

噂を聞きつけたのか、村長らしき人物が入ってきて恭しく頭を下げる。
どう答えていいか迷っていると、エルがまたミラのスープを食べたいと言い出した。
道具も材料もないから無理だとミラが言うが、それならお使い下さいと村長が台所を貸してくれる。

「ミラのスープは美味しいな」

「あなた達、食べ過ぎじゃないの」

「そんなの、ミラのスープが美味しいせいですー」

「ですー」

エルの口調を真似すると、ジュードは思わずと言った風に笑う。
セルリはスープを見つめながら、寂しそうな顔をしていた。
ジュードもミラのスープは優しい味がして好きだと言った。
エルはパパのスープが一番だと言い、二番はルドガーだと言う。
それがミラの負けず嫌いに火をつけたらしい。

「私が、この人より下!?冗談でしょ」

私だってもっとすごいスープを作れるんだから、と。
オルンは微笑ましそうにエルとミラのやり取りを見ていた。
セルリの頭にぽんと手を置く。

「美味しかったか?」

「うん」

「じゃあ、何番目くらい?」

「……二番?
一番は、父様と母様のスープ」

「じゃあ、あなたにも食べさせてあげるわ。
あなた達のパパよりもっと美味しいスープ」

「ちなみにちなみに、ジュードは?」

「オルンさん、ミラさんの反応で楽しんでますよね……」

「実際楽しいからな」

ミラの視線がジュードに注がれ、困ったような顔でジュードは控えめに二番だよと言った。
うろうろと視線を彷徨わせている。

「あなたも自分のパパなんて言うんじゃないでしょうね」

「違うよ!一番はリベルのスープ、かな」

先程の事もあって、ミラの眉がぴくりと反応する。
あんな不良に……と呟き、絶対に皆を見返してやると息巻いている。

「あいつ料理出来るんだ。
俺は専ら食べる専門だからな。
競争心に火がついてその分美味しいものが食べれればそれでいいけど」

「もしかして、それが目的なの?」

「策士っしょ?」

セルリににやりと笑いかけ、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
それがミラの気分転換になるのなら、とまでは言わなかった。
気遣いっていうのは、本人が気を遣われてると分からないくらいのものがいい。

分からないと言えば、リベルも……か。
大事な事は言わないタイプらしい。
誤解され易そうな人間だな、というのが第一印象。
かと思えば、ジュード達に慕われてて……
しかも、ジュードが恋をしてる人で。

「もっと話してみたい気もするけどな」

以前ユリウスに問いかけた、何を以てこの世界を正史世界と呼ぶのかという疑問。
リベルが現れた時に透け始めた自分の身体。
それが意味するのは、そのまま問いの答えなのではないかと。
真実はいともあっさり見つかる事もある。
それに気付くからこそ、自分は天才と呼ばれていた。

「数奇な運命だね、本当に」

今は、彼らについていくしかなかった。


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