tox2

□センチメンタル
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クランスピア社前にパン屋の露店がある。
アーストは店主と面会の約束をしていたそうだ。
先程の電話は時間が取れたという連絡だったらしい。
アーストが話している間、並べられたパンを眺めていた。

「何か欲しいのか?」

「ちょっと小腹がすいたかなぁ、なんて」

「奢ってやる。好きな物を選べ」

「いいの?」

「構わん。が、あまり悩むと気が変わるかもしれん」

多少意地悪な口調にむっとする。
顔に出ていただろうか。
早くしろと急かされる。

「ついでに私も奢ってもらいましょ」

「エルもエルも」

「このオレンジパン美味しそう」

ミュゼも子供二人もそれぞれ好きな物を取っている。
アーストは諦めているのか何も言わなかった。
今日だけだからな、とルドガーに告げている。

「美味しい。焼き加減がまた絶妙……」

美味しい物を食べると頬が緩む。
アーストの視線を感じてすぐに顔を戻した。
呆れた様な顔をされている。

若い男数人がたむろって何かを話しているのを偶然聞きつけた。
誰かから逃げているらしい。
アーストは身分を隠しているから厄介事には巻き込まれたくないそうだ。
先程、店主とつなぎをつけてくれると言った店員が兵を連れた人間に捕まっている。
五人組の子供を見なかったかと聞いているらしい。

立ち去った方がよさそうだ、とアーストは身を翻す。
五人組の男もこちらに向かって逃げてきていた。
その内の一人とルドガーがぶつかり、尋問をしていた男に見つかる。
何故かオルン達まで逃げる羽目になった。
前から来た追手をアーストが一瞬で叩き伏せる。

クラックという男を結果的に助けた形になるアーストは、感謝されて口々に称賛されていた。
ただし、リーダー格のターネットという男はそれをよく思っていないらしい。
彼らは学生だそうだ。あまり学校に行っていない者同士がつるんでいるらしい。

「学校……。どうして行かないんだ?」

「色々あるんだよ。先公がうざかったりさ。
見たとこ、あんたも学生だろ?」

「まぁ、そんなとこ」

適当に誤魔化して笑う。
学校は行った事はないが、同じ年の者達で勉学などに励む場所だと認識している。
一度くらい行ってみたかった。
そんな事を思っていると、ターネットが公園に来いと口パクで言ったのが目についた。

「やな予感」

「何かあってもガイアスが守ってくれるわよ。ね?」

「自分の身は自分で守れ。
それが出来ぬ程弱くはないだろう」

「万が一の事も考えて、ね?」

「やけに食いつくな、ミュゼ」

「乙女の勘、かしら」

うふふ、とミュゼが微笑んでいる。
若干悪寒を感じつつ、ルドガーの家の前の公園に足を運んだ。
ターネットは率直に、俺達の前から消えてくれと言った。
気にくわないらしい。

「俺は気付いてんだよ。
お前の正体に!」

王という事がバレていたわけでなく、単にリーゼ・マクシア人だと気付かれていただけのようだ。
その事にほっとするも、ターネットはリーゼ・マクシア人が大嫌いらしい。
そういう人間はたくさんいるらしく、いつの間にか周りを取り囲まれていた。

「予感って当たるもんだな」

数は多けれど、相手はただの一般人。
自分達の敵ではなかった。
また一人と出来るだけ傷付けないように武器を叩き落としていく。

「なんだお前ら……バケモノかよ」

皆が散り散りに逃げて行き、ほっと一息つく。
やっぱりリーゼ・マクシア人とエレンピオス人はそう簡単に手を組む事など出来ていないようだ。
資源としてはリーゼ・マクシアが、人口や国力はエレンピオスが上回っている。
問題が山積みなのに、いや、だからこそ皆が頑張っているのだろう。

「ディールで皆に合流しようか」

そろそろ差し押さえも終わったんじゃないかな。
ローエンの本気の折檻は噂には聞いている。
今は穏やかだが、あれで中々武闘派だったらしいし。

鞘に収まった剣を見下ろして溜息をつく。
剣の練習、ちゃんとした方がいいだろう。
今まではそれほど必要じゃなかったけど、これから先何があるか分からない。
リベルとオルンが同じ基本能力を持っているとしたら、鍛練すればあれくらい戦えるようになるかもしれない。

「どうした?」

「ああ、うん。剣の練習しようかなって思ってさ。
リベルくらい強くなれたらいいなって」

「奴程までには強くならなくていい」

「え?」

アーストは答えずに先に行ってしまった。
首を傾げるオルンの隣でミュゼが笑っている。

実際、アーストにもどうしてあんな事を言ったのか分かっていなかった。
オルンがリベル並に強くなった姿を想像したらぞっとしたというのもあるが。

ディールに着くと、早々にルドガーのGHSが鳴った。
また分史世界が見つかったそうだ。
そういえばミュゼは、と探していると……

「……うふ」

「……何を連れて来たんだ?」

堂々と魚料理をつまみ食いしてきたらしい。
店長が顔を真っ赤にして怒っている。
この女の連れなら、罰として皿洗いでもしてもらおうかと。

「……それって俺も含まれてる、な。
というわけでルドガー、お前だけでも逃げな」

丁度ミラ、エリーゼ、レイアと鉢合わせした。
彼女達が分史世界について行ってくれるようだ。
アーストと顔を見合わせ、同時に溜息をついた。


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