tox2

□存在するということは
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ジュード、ミラ、ガイアス、ミュゼ、そして自分とルドガーと子供二人でクランスピア社に向かう。
最後の道標が見つかったとエルは先程から浮き足立っている。
反面、セルリは思い詰めたような顔で皆の後ろをついてきていた。

「しめーが終わったら、父様と母様のところに帰れるの。
だから、もうちょっと頑張るわ」

年不相応に悲しそうに微笑む。
これは、聞かなければならない事だと思った。
セルリ、と呼びかけるもただただ微笑むばかりで何も話そうとしない。
ルーメンが小さく鳴き、少女の傍らに寄り添う。
嫌な予感がして、セルリから目を離す事だけはしないようにしようと思った。

エントランスにヴェルが待っていて、精霊マクスウェルと思われる物体が障害となって分史世界に侵入出来ない事を話した。
詳しくは社長室で、と言われてついていく。

「あなたは……」

さすがにビズリーはオルンとリベルの違いは分かるようだ。
ガイアスを見て驚きに目を見開く。
二人は互いに挨拶を交わした後、ビズリーが説明を始める。
和平条約調印は目前、は初耳だった。
無論リベルも同席しなければならない。
ガイアスがちらりとこちらを見た事で悟った。
最悪、リベルが姿を現さない場合はオルンが代行を、と考えているのだろう。
それほどに調印は必要不可欠なものなのだ。
オルンも特に嫌がる理由はなかった。

ヴェルが説明を始める。
時空の狭間に障害物があり、侵入を跳ね返されたそうだ。
四大精霊の力で。
四大が一緒ならこちらの世界に戻って来れるのでは、とミュゼが首を傾げる。
ミラが顔を歪めたのを見て、軽く背を叩いた。

「こっちも方法を探してみるよ。
最後の道標、早く手に入れたいし」

肩をすくめて笑ってみせるが、耐え切れなくなったのか、ミラがぽつりと漏らす。
方法なら分かってる、と。
バカ、と心の中で呟いた。
走って去ってしまったミラの背を見送り、こめかみに手を当てて溜息をつく。
エルが追いかけ、次いでルドガーとジュードが後を追う。
さて自分もと思った所で、背後から声をかけられた。

「オルン、あなたも心当たりがあるのではないのか?」

「さぁてね」

「リベル陛下といい、中々の食わせ者のようだ。
だが、何より優先すべきは道標の回収。
なあなあで済ませる事ではない。それを理解してもらいたい」

「……分かってますって。
多くの世界を壊した上に、俺達の世界まで壊れたんだ。
あんた達はここで立ち止まるわけにもいかないだろうさ」

苦く吐き捨て、振り返らずにそのまま部屋を出る。
間違ってるものは全て壊す。
そうしなけれないけないのは、理解している。

「あー、ったく。
偽物、の心情は無視なわけね。
合理的ですね。それは素晴らしい」

こんなの、子供の駄々と変わらない。
せめてミラだけは守りたいと思った。
それは今も変わらない。
だけど、守りきれる自信はない。
自分の存在ですら、不安定なのに。

「オルン……」

「セルリ……。今の聞いてた?」

注意が散漫になっていたから、エルと共にミラを追いかけたものだとばかり思っていた。
ちょいちょいとオルンの裾を掴み、心配そうに見上げている。

「偽物でも、想いは本物よ。
だから、自分を大事にしなきゃ」

「……こんな子供に言われるなんてな。
分かってるよ。俺は平気。皆を探そう」

この無機質で雑多な街並みの中、ミラが向かう場所といえば……
海、海が見える場所。大自然の中で暮らしたのなら、そこが安らぐ場所かもしれない。
港に向かうと、ミラはすでに自分がミラ=マクスウェル復活の障害になっている事を話し終えたようだった。

「アルヴィン……?」

「……オルンか」

皆の中で、アルヴィンが一番オルンと距離を置いていた。
また微妙な反応で、と心の中でぼやく。
私を殺せばいい、とミラが告げると、アルヴィンは子供の前で止めろよと口を挟んだ。

「でも、オルンさんとリベルは同時に存在出来たけど……」

「それは、あいつが刺した剣がオルンが消えないように守ってるのよ」

「じゃあ、またリベルに相談して……」

「……あんな剣、二本もあるとは思えないけど」

リベルの事だ。
ミラも分史世界の存在だと気付いているなら、とっくに処置を施しているだろう。
それがされてないという事は、つまりあの剣は一振りだけだったという事だ。

「分史世界で探してみたらどうかな?
それなら……」

「その前に緊急事態だ」

ジュードの提案を遮り、アルヴィンがアルクノアのテロの事を話しだす。
ガイアスから連絡があったそうだ。
和平条約の調印式を邪魔する目的らしい。
そこで、アルクノアと関係の深いアルヴィンに手を貸してくれと頼んだそうだ。

「俺達も手伝おう」

ルドガーが頷き、ミラを見る。
エルがミラの手を引いて名前を呼ぶと、戸惑ったようにオルンを見た。
にっこりと笑い返してやる。

「恩を売るチャンスだって」

少しずるい考え方だ。
そんなオルンの言い草にアルヴィンが肩をすくめる。
リベルだったら、こうは言わないのだろう。

「アルヴィンさぁ、俺はリベルであってリベルじゃないわけで。
その辺、割り切ってくんないかな」

「分かってるって」

棘が僅かに含まれてしまった。
言った後で自己嫌悪。
何事も円滑に、がモットーなのに、俺は……
舌打ちを堪えて、締まりのない顔で笑う。

ガイアス達は既にマクスバードに向かったそうだ。
行こ行こと皆を促す。
いつもの調子、取り戻さないと。


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