tox2

□誓いと君と
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気を利かせたのは、意外にもアルヴィンだった。
シャン・ドゥで取り引きがあるから、一緒に来ないかと。
ローエンもお供しますと微笑んだ。
エリーゼのGHSが鳴る。どうやらメールのようだった。
はっと顔色を変えたものの、シャン・ドウで待ち合わせをする事になったからと同行を申し出る。

ガイアスは調印式の事を伝えに一旦カン・バルクに戻ると言い、ミュゼもついていく気のようだった。
それと取材の為に、邪魔にならないようにするからと手を合わせて、レイアもガイアスについていく。
ジュードはヘリオボーグからの呼び出しで、ミラも源霊匣の事が気になっているようで一緒に行くと言った。

「君はオルン、だったな。
君にも誓わせて貰えないだろうか。
ミラの死は無駄にしない、と」

「……何て言っていいか、分かんないんだけど」

「そうか」

このミラは浮世離れしている。
大きな真紅の瞳は凛としていて、気軽に声をかけ辛かった。
それでなくとも、正直ミラを恨む気持ちもあった。
誰のせいでも、ないのに。

「オルン、行こうぜ」

「ああ……」

アルヴィンに声をかけられて、シャン・ドゥに向かう為に船に乗り込む。
ルドガーとエル、セルリも、ノヴァから斡旋された仕事がシャン・ドゥだというので一緒に旅をする事になった。

「じいさん、ああいう時、なんて言えばいいんだろうな」

「難しい質問ですね。
リベルさんが仮にああなったとしても、やはりかける言葉は見つかりません。
情けない事ですが」

「でも、リベルは乗り越えられました。
だから、きっとオルンも大丈夫だって信じてます」

思えば、リベルはアグリアが転落する所を見ていたわけで、そしてまたオルンも大切な人を目の前で失う体験をしている。
嫌な因果だ、とアルヴィンは顔を背けた。
無意識に懐を探り、ぎゅっと握り締める。
一人で船室にいるオルンを想い、一行は暗い雰囲気のまま潮風を浴びた。

シャン・ドゥに着くと、ローエンが罵倒されて石を投げられる事態になった。
エレンピオスの犬め、と。
リベルと間違えられ、オルンもその対象となる。
アルヴィンが軽く脅すと、そそくさと逃げ帰っていった。
このシャン・ドゥは伝統を重んじる街、保守的な人間が多いのだと。

「悪かったな。ああいう奴ら、たまにいるんだ」

「別に、気にしてない」

ルドガーのGHSに連絡が入る。
最後の道標の分史世界に入れるのかと思ったが、そうではなく別の分史世界が見つかったとの事。
進入点はイル・ファンだそうだ。

「まだ時間あるし、付き合うよ」

「私は今はこの場から離れた方がよさそうです。
オルンさん、一緒に」

「……ああ」

生返事を返し、ルドガー達と共に分史世界に入り込む。
着いたのは光の華のオブジェのある広場だった。
少し前に来た時のように人々の顔には活気が満ち溢れている。

「ナハティガルが、善政?
十中八九、それが時歪の因子だな」

口々にナハティガルを称賛する人々が、気持ち悪い。
自分が知っているナハティガル王、叔父上は欲にまみれた醜い男だった。
何もかも酷い雑音だ。
またもやリベルと間違えて人々や兵士が次々に声をかけてくる。
研究に根を詰め過ぎないように、とか、次の王として期待している、とか。

「ああもう、煩い。
早くオルダ宮に……」

「自棄になんなよな」

「は……?」

「手遅れには、今度はさせない。
俺でよかったらいつでも話を聞くよ」

「……」

肩を叩かれて、顔を逸らした。
心情を吐露すれば解決する問題ではない。
それに、今何かを言おうとすれば、やはり恨みつらみになってしまうだろうと容易に想像出来た。
運命やこの世界、ミラや己についてを。

「オルンさん、私達を信用して下さい。
すぐには無理でも」

「私達は、オルンを裏切ったりしませんから。
大事な、友達ですから」

いつの間にか、オルンという存在は皆に認められていたようだ。
リベルの偽者ではなく、オルンとして。
素直に喜ぶ気にはなれなかった。
ミラがいれば、また別だったかもしれない。

「気、遣わなくていいって。
俺も近い内に消える運命だろうし」

「そんな事言ったらだめだよ!」

エルが反応して大声を上げる。
オルンですら目を丸くするほど、エルの目は泣きそうだった。
ミラみたいに消えちゃうのは嫌だと駄々をこねる。

「オルン、言霊って知ってる?
口に出した事が本当になってしまうのよ。
だから、不吉な事を言わないで」

セルリにもお願いをされ、オルンも黙った。
ここに繋ぎとめようとしてくれている。
やはり手放しに喜ぶ事は出来なかったが、荒んでいた心も多少は和らいだ。
一人では、ない。


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