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□眠れない夜に
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少し前まで、寝床は農具庫のような場所だった。
寝床とはいえないような、和良が敷き詰められた床に、寒さに凍えながら寝た。

寝心地がいいとはお世辞にも言えないが、朝から晩まで肉体労働を強いられた身体は、一日の終わりには動かすことも出来ず、毎日倒れこむように寝ることが出来た。

その時とは、天と地ほどに違う暖かな寝台。
ふわふわの掛布に、いい匂いがする香。
そして、静かな室。

ただ、気持ち良く眠るためだけの室。

黎深さまに拾われ、百合さんが自分だけの室を用意してくれた。

「此処が、コウの室よ。私の室は、この廊下の突き当たりだから、何かあったら呼んでね」

そう言って用意してくれた室は、窓から庭園が見渡すことが出来、そこがとても気に入った。
勿論、嬉しく思ったが、自分には勿体なく、申し訳ない気持ちが勝った。

そのせいか、ただの緊張か。
はたまた、慣れない場所で眠るせいか……
原因は分からないが、夜眠れない日々が続いた。

昼間、庭師の手伝いや勉強などに身体や頭を使っても、眠ろうと思うと目が冴える。
こんなにいい室を用意してもらったにも関わらず、眠れないことが更に申し訳なく思い、眠れ眠れと思うほど、目は冴えるばかりであった。



今日もまた……



「眠れない……」

横になってから半刻ほど時が経っただろうか。
その間、目を瞑りながら、虫の声や風の音を聞いた。
ただ、何も考えずに。

そうしている内に、いつの間にか眠ることが大半なのだが、今日はなかなか眠りに落ちない。

むくりと身体を起こすと、寝台から降りた。
床に付いた足が、ひんやりと冷たく感じる。

庭園が見える窓を開けると、虫の音が大きく響いた。
風が頬をかすめる。

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