拍手(過去)

□いつから
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いつからだろう。

彼女の声が、表情が、一挙一動が……

その存在が……

自分の心を乱すようになったのは、一体いつからだろうか。





ザアザアと、雨が降る。

来るときには小降りであったが、帰る頃にはすっかり大降りになっていた。
軒でも呼んだほうがいいだろうか。
そう悩んでいると、自分の横で、先ほど出した問題を全て解き終えたらしい秀麗が言った。

「絳攸様、もしよければ、泊まっていかれませんか?」

自分の思考を読んだかのような言葉に驚き、一瞬、返答につまる。
咄嗟に言葉が出ない代わりに、ふるふると首を振った。

「いや……そういうわけにはいくまい。軒を拾って帰るから大丈夫だ」

「でも、この時間ではなかなか軒も捕まらないですし……待っている間に濡れてしまいます」

「しかし……邵可様に断りもなく泊まるわけには……。今夜は、お帰りにならないのだろう?」

邵可は、府庫に泊まり込みだと言っていた。
静蘭も、左右羽林軍の飲み会に無理矢理連れて行かれ、渋々参加しているらしい。

「父様には、事後承諾になりますが、ちゃんと伝えますから。それに、私が一人でいるより、絳攸様と一緒の方が、父様も安心すると思います!」

果たして、本当にそうだろうか。
娘が家に一人でいるときに、男が泊まる方が心配ではないだろうか。
秀麗には、警戒心や危機感といったものがまるでない。

王の教育係を引き受けた時だってそうだ。
いくら男色家との噂が名高い王とはいえ、妃として嫁いだのだ。少しは危機感を持ってもいいだろうに。



「絳攸様……その、ご迷惑、でしたか?」

「迷惑?」

「いえ……勝手に話を進めてしまって……。もし、ご自宅の方が休まれるなら無理に泊まって頂くのも申し訳ないかと……すみません」

返答に間を空けてしまったからか、どうやら絳攸が困っていると思ったらしい。
無理に勧めてしまったことを恥じるように、秀麗は顔を赤くして俯いた。

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