04/30の日記
02:30
君の心に
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一体、彼は何をしに来たのだろう。
三杯目の紅茶を飲み終えたところで、堪忍袋の緒が切れた。
「君、何してるの……?」
「何って、見ての通り、本、読んでるけど」
「そうじゃなくて、何しに来たのと聞いているのだよ!!」
「はぁ?お前が呼んだから来たんだろ?」
いや、まぁ、そうだけどさ……
私、昨日、彼氏に振られたんだよね。そう、言ったよね。
君は、傷心の乙女を慰めるために此処にいるんじゃないのかね?
決して、私の淹れた紅茶を飲みながら、買ったばかりの小説に没頭する為に此処にいるわけじゃないと思うんだよね。
心の中で散々文句を連ねるが、言っても流されるだけなのは分かっている。だから、口には出さない。
その代わり、訴えるように目を細める。
「何、その目」
「……別にー」
「なんだよ。言いたいことがあるなら、はっきり言えよなぁ。感じ悪い」
言ったって、聞かないくせに。
「私さ、傷ついてるんですけど」
「ん、あぁ」
「ん、あぁ……って!!それだけ!?言うことはそれだけなのか!?」
「俺に何を言えっていうんだ。大体、一ヶ月しか一緒にいなかった相手と別れたって大して寂しくなんかないだろ。一ヶ月分の思い出しかないんだから」
「長さの問題じゃないのだよ!!どれだけ相手に思い入れがあるかなのだよ!!」
「そんな、あっさり別れられる相手に、思い入れなんかあるのか?」
「……まぁ、あったよ。今回は、それなりに」
今年に入って、三人目の彼氏とは、それなりに仲良くやっていたつもりなのだ。
でも、一ヶ月は短かったなぁ……
ぼそぼそと話す私の頭を、彼がポンポンと軽く叩いた。
「しっかし、続かないな、お前」
「うっさいなぁ……ほっといてよ」
「まぁ、泣くなよ」
「泣いてないでしょうが」
ふて腐れる私を見て、彼が微笑む。
「添い寝、してやろうか?」
「……手、出す?」
「今更出すか、アホ」
へぇ……顔色一つ変えないんだ。ふぅん、まぁ、分かっていたけど。今更。
君を動揺させるのは、君の心を占領しているのは、あの人だけだもんね。
「ねぇ、ヴァイオリン弾いて」
「はぁ?今、夜中なんだけど」
「大丈夫大丈夫。防音だから、この部屋」
面倒そうに顔を歪めた彼は、ため息を一つ吐くと、仕方ないといった風に楽器を取り出した。
「リクエストは?」
「雨の歌。ヴィヴァルディの」
「了解」
「あ、楽譜は?」
「いい、覚えた。いつもお前に弾かされるから」
言いながら、軽くチューニングをし、そして曲を奏でる。
暖かい音色。優しく、優しく奏でられる、雨の歌。
それを奏でる彼の指先も、音も、私の頭を撫でる手も、優しい微笑みも……
今、この時だけは自分のものだと嬉しく思う。
反面、悲しく思う。
一番に欲している彼の心は、どう足掻いても手に入ることはないのだ。
「失恋の傷は癒えましたか、お嬢様」
ふざけた口調で、彼が言う。
「まぁ、次の相手が見つかるまでの間くらいは」
私も笑って、そう返した。
君の、心に……
Fin.
最近、妹とお題小説を書きあっています。
私の手にかかれば、たちまち意味不明なお話の出来上がり♪
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