06/04の日記

10:54
反射・1
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「頭を撫でて」の続きです。





あれは、反射だ。





例えば、熱い物に手を触れたとき、思わず耳たぶを触るような……
砂ぼこりが舞ったとき、思わず目を瞑るような……
捨て猫を見たとき、思わず足を止めてしまうような……





それらと同じ、反射だ。





「香焼(こうたき)先生、どうされました?」

自分の名を呼ばれ、思考の中から現実に意識を戻す。
顔を上げると、そこには、手にした煙草に火を点けようとしている同僚の女性教論の姿があった。

「三枝先生……珍しいですね。喫煙所にくるなんて」

「いや、あなたが知らないだけで、これで結構吸うんですよ。まぁ、確かに学校で吸うのは久々ですね。それより、あなたが惚けている事のほうが余程珍しい」

「ほ、惚けているわけでは……」

「おや、違いましたか?それは失礼。では、悩み事でも?」

三枝先生はくすりと笑ってこちらを見た。

悩み、といったら悩みだ。
だが、思わず生徒の頭を撫でてしまった言い分を、「涙を流しながら名を呼ばれ、思わず、それはもう反射的に撫でてしまった」ということにして、自分を納得させようとしていたなんて言えまい。

「反射について、考えていました」

「反射?光の、ですか?」

「いえ、人体の」

「……あぁ、反射」

三枝先生は、納得したような、それでいて訝るような視線を投げ掛けながら、続けた。

「香焼先生は、国語教師なのに」

「国語教師でも、たまには生物のことを考えるのですよ」

はきはきとした口調でそう言うと、三枝先生は「そうですか」と然程興味がなさそうに頷いた。
まぁ、それ程興味の沸く話ではないことは確かだ。

冬の日の入りは早く、5時前だというのに外は既に薄暗い。
校庭を見下ろすように煙草をふかしていた三枝先生が「へぇ」と溜め息を漏らすように呟いた。






続きます!

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