08/31の日記

00:24
神様と光・3
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「神様と光・2」の続き





扉を開けた瞬間、音がクリアに届いてきた。
その音に、周りの一切の音が消されていく。
さっきまであんなに鳴り響いていた雷の音さえ、聞こえない。
絳攸の耳に……いや、心に届くのは、ただピアノの音だけだった。

(「大バッハ……」)

ヨハン・セバスチャン・バッハ
音楽の父、偉大なる音楽家、大バッハ。
その曲は、絳攸にとって初めて聴く曲だったが、バッハの曲だということは分かった。

『バッハは、教会のオルガニストでね。教会の音楽も沢山作曲したんだよ』

前に、院長先生が教えてくれた。
教会で耳にする音楽と似ている。きっと、バッハの曲だ。



あぁ、何だろう……
この感覚……この気持ちは、何だろう。
聴いていると、胸が躍り、叫びたいほど焦がれているのに、泣いてしまいたい。

絳攸は、ピアノを弾く男性を真っ直ぐに見つめた。
彼が音を紡ぐ指先、揺れる長い黒髪……
雨は未だ降り続いていたが、雲の隙間から漏れる太陽の光がステンドグラスを透し、キラキラと輝いていた。

気がつくと、自分の頬に熱いものが流れていた。
静かに、静かに流れるそれを、手の甲で拭おうとすると、誰かが裾をクイッと引っ張った。

視線を落とすと、あやねが裾を握っていた。
彼女の視線は、真っ直ぐにピアノを捉えたまま。
その目からは、綺麗な涙が流れていた。



「子供、なぜ泣いている」



流れるように奏でられていた音楽が、プツリと止まる。
その音楽を奏でていた男性が、不機嫌そうな顔で言った。

「……わかりません」

「分からないのに泣くのか?」

「はい……わからないのです。どう言ったらいいのか……」

この思いを言い表わす術がなく、もどかしい気持ちになりながら言葉を飲み込む。
男性の眉が、訝しげに歪んだ。





もう少し続きます。
次でラストの予定!

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