09/02の日記

02:05
神様と光・4
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「神様と光・3」の続き





「かみさまのおと」

幼い声が、二人の間に割って入った。

「かみさまのおとです。あなたは、かみさまですか?」

あやねが、呟くように小さい声で、けれどハッキリと言った。

(……神様の、音)

絳攸も、その言葉を心の内で反芻した。
そして、その通りだと思った。
神様の音。神様が、彼に与えた唯一無二の音だと。



どうしたら……一体、どうしたら……



「どうしたら、神様の音に近付けますか?」



思わず、口を突いた言葉に、絳攸自身が驚く。
言うつもりなど無かった。
それを聞くことは、ペンギンが鳥に「どうしたら空を飛べますか?」と聞くのと同じようなことだと思った。
そのくらい、彼の音は素晴らしく綺麗だった。普通の人間に真似できるとは思えないほどに……。

「あ……いえ……どうしたら、あんな音が出るのかと……。僕は……あんなに綺麗な音で弾けなくて……」

恥ずかしさに顔を伏せながら、しどろもどろに言葉を繋ぐ。

「……ピアノを弾くのか?」

それまで何も言わずに黙っていた彼が、絳攸に尋ねた。
その問いに、軽く顎を引く。

「今日も、さっきまで弾いていました。けど……」

「……けど、なんだ」

「高いファとソの音が、変なので……院長先生に言いに……」

「……ほう」

それまで無表情だった彼の顔が、口元に笑みを作る。
それは、面白そうに……。

「この音の狂いが分かるか。面白い」

彼は、ピアノ椅子から立ち上がると、扉の方へ足を進めた。
絳攸たちの前で、足を止める。

「私の音が欲しいなら、一緒に来い。その目で、耳で、感性で、盗め」

絳攸の返事を待たずに、彼は扉を開けた。
空いた隙間から、光が漏れる。その眩しさに目を細めた。



『一緒に来い』



絳攸は、彼の背中に向かい、足を踏みだした。



彼が、有名なピアニスト紅黎深だと知るのは、彼の養子になった後だった。
あの時から、ずっと黎深の背中を追い掛けている。

神様の音に、近づくために……





Fin.





挿入曲:バッハ/シンフォニア第5番 BWV791





●あとがき
「神様と光」という題名。
光は、ひかりとコウをかけています。
原作は、冷たい雪山での出会いでしたが、この話はそれとは逆に、暖かで穏やかな日々の中での出会いにしたくて……
だけど、絳攸にとって「運命の出会い」であることは変わらない。そう考えて書きました。

あと1ページ、「後日談」みたいな話を書こうかな。
という気分でいます!

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