ミエナイキズナ
□第一章 夢か現か・・・
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いつの間にか、私は知らない場所に立っていた。
一人じゃない…自分の左手は知らない誰かに握られている。どうやら青年らしい。
私よりも遥かに背の高いその人の顔は見えない。けれどなんとなくかっこいいと思ってしまい、いつの間にか見とれていた。
―この人は、私をどこに連れて行くつもりなんだろう?
―もしかしたら、私は今から売りに出されて死ぬまで働かされるのではないか?
そんな不安がなかったわけではないが、心の何処かでこの人を信じたいと思っていた。
この人は、私を悪いようにはしない
何にも根拠なんてありはしない。
あえてあるというのであれば、
この左手に感じる優しい温もりだけ…
それにしても、どうしてなんだろう。
この場面、何処かで見た気がしないでもない。
私はここが何処かも知らない
私がこの人が誰なのかも知らない
なのに、どうして?
私より少し前を歩いているこの人に聞いてみようか、と思った。ひたすら黙ったまま前だけを向いている、少し急いでいるようにも見えた…彼は今何を思っているのだろうか?
「あ、あのっ!!」
言葉を発した途端、視界がぼやけた。
左手にさっきまで伝わっていた温度は消え、冷たい空気がその手を冷やしていく。
ガバッッ
いつの間にか上布団を跳ね除けて、上半身を起こしていた。
「夢…だったんだ…」
さっきいた場所ではない。今私がいるのは、いつもと変わらない道場の奥の部屋だ。
「あ…」
私は知らないうちに、呟いていた。
「ということは、当然あの人もいないんだよ…ね…」
今、自分のもとに家族は一人もいない。彼らの顔も覚えないまま、今までずっと過ごしてきた。私は、寂しいのだろうか…
ここの道場主の犀彰(さいしょう)さんには、よくしてもらってるんだし。何の不満もない。だけど…
―家族がいたら、私は今頃どうしてるんだろう?
そんなことを考えると、胸の中がもやもやする気がする。あの青年を求める理由は、ここにあるのだろうか…
心の内で自問自答を繰り返しながら、私は布団を片付けだした。とりあえず、今はあの青年のことは忘れようと思った。剣術の稽古に支障が出てはいけない、危ないしね。
そして夜になったら、少し期待して眠りにつこう。
また、夢の中であの人に会えますように…