本棚▼デュラララ!!
□呼吸【シズイザ】
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キスは嫌いじゃない。むしろすごく好きだ。だって相手の表情とか性格とかがもろにわかるじゃん?
だからキスは嫌いじゃない。嫌いじゃないんだけどさぁ。
「むぐっー…!?」
「ッ!?」
いくら俺だって、世界で一番嫌いな奴にキスされたら嫌じゃんね?
俺は彼の身体を引き離そうとするが「水中」じゃそんな抵抗意味もなかった。
ただただ、俺は水圧と重力の狭間でもがきあがいていた。
「んぐっ…ぅっ」
「っいざ…」
一瞬はなれたかと思ったけどすぐに戻される距離。俺がこんな惨めな様なのに、ほかっておけば死にそうだったかもしれないのに。何で君は俺を助けるみたいに唇を、息を押し付けてくる?
抵抗できない俺に君は何故助けるようなマネをする?俺を殺せるチャンスなんだよ?
「っはー…ッ!!」
「いざやッ!!」
水面に上がったときには俺は全身の力が抜け切っており、もう、言葉すら発せない状態になっていた。
そんな俺の頬を叩いてはしきりに名を呼び続ける君。だけど俺は返事をすることはできなくて余計に君の眉間の皺は増えていく。
「くそっ…!!!」
「…っ」
大きく息を吸い、肺に溜めた息を俺に入れてくる君。俺はそれにしがみつくように、必死に受け入れていた。状況が状況だし、俺は死の危機に直面してきっと生存本能が芽生えたんだと思う。まったく笑える話だろ?よりにもよってシズちゃんの助けなんかに頼っちゃったんだから。
「はっ…」
「はぁ、はぁ…」
口を軽く腕でぬぐってからもう一度。
もう一度、もう一度、もう一度
「シズ、ちゃっ…」
「っ」
「むぐっ…」
途中唇をかまれたり、しきりには舌を入れようとする。俺はもう大丈夫だよ?大丈夫だってば。
「…っ!シズちゃん、いい加減にっ」
「黙れ、馬鹿ッ」
「んっ」
何でそんな悲しそうな顔するのさ。君の大嫌いな俺が、たった今死にそうだったのに。急に飛び込んできたりして。ヒーローのつもり?そういうの全然かっこよくないし。いや、シズちゃん以外だったら少しはかっこよく見えただろうけど。
「…、誰に、落とされた?」
「俺のこと嫌いなやつしかいないでしょ」
「ッ!!お前のことなんか、俺だけが嫌っていれば十分だろッ!!」
ぎゅっと俺の細い身体を抱きしめるシズちゃん。そりゃもう、骨が折れちゃうんじゃないかってくらい。だけど、だけど俺ってばシズちゃんの背中に腕を回してしまっていた。
「…ふっ」
「…、何笑ってやがんだ、気持ち悪ぃ」
気持ち悪いのは君のほうじゃないかと、今ここで腹のソコから言ってやりたいところだが、今は別に言いたいことがあるんだよ?シズちゃん。
「じゃぁ、じゃぁさ、俺は、」
「…?」
シズちゃんと額をこつんとあわせて、俺は最高に、最悪にこう笑った。
「じゃぁ、俺が嫌っていいのはシズちゃんだけってこと?」
俺が「冗談」って言ってシズちゃんを怒らせるのが30秒後
俺が逃げてシズちゃんが追いかけてくるのが1分後
そして俺とシズちゃんがドタチンに説教されるのが5分後、そしてー…
そしてきっと、10分後にはぶっきらぼうにアイスの棒を加えた君と、不適に笑う俺がいつものように隣で歩いているのかなぁ