そのいち
□取り留めておきたい
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『…棗…?』
いつもこの部屋で聞く元気で
明るい声とは正反対の暗く淋しい声。
今にも消えてしまいそうなくらい儚い。
思わず恐怖を感じてしまう。
しかし、それを悟られないようにする。
「何だよ?」
平常心 平常心 と心の中で
言い聞かせる俺は何て格好悪いだろう。
『…キスして?』
さっきよりも儚い音量で言った
名無しさんの声を何とか聞き取る。
改めて言わなくたって、許可を
取ったりせずにいつもしている事。
聞きたいことはいろいろある。
けど、今は名無しさんが望むことをする。
いつもだったら、「来い」と言った。
だけど、今日は俺から行く。
少し俯いている名無しさんの顎を
俺の方に向けさせると、
見られるのは目をつぶって真っ赤な顔。
壊れかける理性を必死に抑え、
ゆっくり唇重ねる。
いつもなら、何度も角度を変えてから
俺が名無しさんの口腔内を犯すけど
今日は名無しさんの舌が入ってきた。
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